二人の王女(6)
アークは馬から飛び降り、マルグリットの方へと駆け寄った。それに続き、騎士らもシェハも馬から降り、マルグリットに駆け寄る。あすかの自力で馬から降り、そちらへと走り寄った。
男性の身体は、もはや人の姿をなしてはいなかった。水風船が割れたように、あちこちに血やら紫の液体やらが飛沫していた。マルグリットは、その飛沫から免れることができず、身体中にその液体を浴びていた。
「マルグリー!怪我はないか!?」
アークがマルグリットの手を取ろうとすると、マルグリットは「来るなっ!」と声を荒げた。
「私が浴びたのは、間違いなく毒だ!感染している可能性がある!おまえたちは近づいてはいけない!」
マルグリットは顔についた液体を拭いながら、なんとか立ち上がった。
アークは悲痛な表情で膝まづき、頭を垂れて云った。
「貴女を守る役目の私が、貴女を毒に晒してしまった…申し訳ない…」
マルグリットは冷静だった。
「アーク、頭を上げろ。今はそんなことを云っている場合ではない」
キーチェが叫んだ。
「王女、向こうから同じように毒に冒された者たちが大勢やってくる!ここへ居ては危険だ!」
一行は進行方向へ振り返った。キーチェの言葉通り、たった今散り散りになった男性と同じように変色した身体を持つ人たちが、大勢こちらへ向かって助けを呼ぶかのようにじりじりと歩み寄ってくる。アークはこのことをマルグリットに知らせようとしたのだ。
「とにかくここには居られない」
マルグリットが云うと、ゼブラが進行方向から九十度右手を指して云った。
「一刻も早く洗い流さねばならない。この先、崖を下ったところに泉があるはず。そこまで…」
「わかった」
マルグリットはそう云うと、散り散りになってしまった男性に膝まづき、何かを唱えてから歩き始めた。