Neverending Story
「ねぇ?今日が最後なら、浩ちゃんの部屋に行ってもいい?」
へえっ???
唯の思わぬ言葉に、高瀬は声にならない声で驚く。
「やだぁ〜、嘘だよ、う〜そ。なんか今、浩ちゃん、ヘンなこと考えたでしょ?もう、Hなんだから?」
唯が無邪気な顔をして、高瀬を茶化す。
「へえっ?あ…、う、嘘?い、いやいや、ち、違うよ、違う。そんなこと思ってない。違うって、違うから」
「え〜?なんか、必死になってて怪しいんやけど〜?」
そう言って、唯が噴き出した。
「な、なんだよ。大人をからかうもんじゃないよ。コラッ!」
高瀬は怒ったふりをして、唯を抱き締めた。
「ねぇ?ホントに、ホントにヘンなことしない?」
「あぁ」
「なら、浩ちゃんの部屋に行こうかな…」
「あぁ」
「もっと、浩ちゃんの話しが聞きたいし。それに、浩ちゃんが酔っ払った姿も見てみたい」
「なんで?それこそ危険かもよ?」
「えっ?そうなの?」
唯が、パッと高瀬から離れる。そして、軽蔑な眼差しを向けた。
「えっ?いやいや、それは大丈夫だと思うよ。俺だって、飲んでてもそれなりにちゃんと理性ってものを持っていると思っているし」
高瀬は慌てて、唯に弁解した。このまま唯と別れたくなかった。
けれど、高瀬も男。
少なからず下心は無きにしも非(あら)ず、なのだが、ここまで警戒されてはどうにかなるものでもないだろう。
それに、年齢差もかなりある。
親子ほど離れた女の子を抱くには、やはりそれなりの覚悟は必要でもある。
「あ、あたり前でしょう?アタシだって、浩ちゃんが安全だって思ったから、部屋に行こうって思ったんだからね?」
「それはそれは、どうも。俺だって、君みたいな子供に襲い掛かろうなんて、これっぽっちも思わないから安心して」
「な、何よ!子供じゃないわよ。もう21のれっきとした大人なんよ。お酒だって、そこらへんの男よりも強いんだからぁ」
ハイハイ。分かったよ。分かったから。と言って、高瀬はムッとしている唯の頭を、子供をあやすように撫でた。
「な、何よ?だから、子供じゃないってばぁ」
唯が口を尖らせて言う。
けれど、だいぶ落ち着きを取り戻して、言葉はやや穏やかになっていた。
唯の素直すぎる行動に、高瀬は可愛いと思った。
やっぱり、唯は唯だ。誰でもない。誰の代わりでもない。
初恋の彼女でも、これから復縁をしようと思っている妻でもない。
そして、その面影を追って恋をしている自分も今はいない。素直に唯が好きだ。
唯自身が好きだ。でも、この恋は遅すぎた。
もう、この恋は叶わない恋。あの日のように―――。
作品名:Neverending Story 作家名:ミホ