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Neverending Story

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「由利、別れよう」

「どうして?浩君、私の事、嫌いになったの?それとも、近くに好きな人が出来たの?」

「ゴメン…」

「なんで、謝るの?」

「もう疲れたんだ…。だから…」

「だから?」

真っ赤に燃える夕陽が、今まさに水平線に吸い込まれていようとしていた。

そんな物悲しさが漂う時間帯に、ずっと黙っていた口を高瀬は開いていた。

「札幌と広島じゃ、やっぱり遠すぎる。距離がありすぎるんだ」

「でも、浩君、頑張るって…。手紙も、電話もするって。だから、淋しくないっていって…」

由利の声がだんだん小さくなって、最後の言葉は波の音で打ち消されていた。

静寂な時間が続いた。夕陽が静かに沈んでいく。

と同時に、辺りは薄暗くなっていった。

高瀬と由利は、札幌の大学に入学後、程無くして出逢い、そして付き合い始めた。

高瀬の初恋相手でもあり、一目惚れだった。

付き合って2年目になる頃、由利の母親が突然倒れ、実家に帰らなければいけなくなった、と告げられる。

その頃の高瀬は、由利の母親はすぐによくなって、由利がまた大学に戻ってくるものと思い込んでいた。

けれど、家族の決死の看病も虚しく由利の母親は亡くなってしまった。

由利は一人っ子だったため、弱り果てた父親を一人にはしておけず泣く泣く休学していた大学をやめ、実家のある尾道に戻ることとなったのである。

遠距離になってから半年。

毎日の電話。今ではあたり前となっているメールは、その頃はあまり普及しておらず勉強の合間に手紙を高瀬は苦手ながら書いていた。

それでも、逢えない日々は二人を不安にさせ、一緒にいた頃では考えられない激しいケンカが何日も続くようになっていた。

お互い信じているはずなのに、なのに見えない不安と距離で、更に二人を不安定なものにしていったのだ。

揺ぎ無い愛があれば大丈夫。だって、俺達には見えない絆で結ばれているから。赤い糸が、俺達にはちゃんとあるから。

なんて、そんなくさい言葉で由利を送り出したくせに、その見えない絆や赤い糸を信じきれずに自分から解こうと決めたのは、やはり傷つきたくない一心で自分自身を守りたかったのだろう。

と、客観的に自分を見られるようになった今だから言えることで、でもだからといってもう遅すぎる話しだった。

由利に別れを告げるためだけの目的で行く、初めての一人旅。それが尾道だった。

由利に逢ったら、自分の決意は揺るぐかもしれない。

そんな淡い期待は簡単に裏切られ、由利に逢い、由利と一緒にいる時間が長ければ長くなるほど、その別れの決意は揺ぎ無いものとなっていた。

一方的に由利と別れ、高瀬は逃げるように札幌へと帰ってきた。長く感じた道中は、一瞬で行って帰ってきたような感覚と心の奥底に感じる小さな痛みが暫く続いた。

由利と別れれば、ラクになれる。

ずっと負担だと思っていた現状から解放される。そう思っていた。

でも、違っていた。

時間が経てば経つほど淋しさはジワジワと溢れ出し、心に鋭い痛みを生じさせたのである。

どうして、別れたんだ。

どうして、別れようと思ったんだ。

どうして、頑張れなかったんだ。

どうして―――。

悔やむ心が、容赦なく襲う。

そして、後悔以上の感情を高瀬に注ぎ込むのであった。

幼さ故の恋は、自分だけの力ではどうしようもない。

絶えず後悔をし、絶え間ない苦しみが高瀬を襲う。

癒されることのない心。

ぽっかりと穴が開いたまま、塞ぐすべを知らない弱い自分。

けれど、そんな高瀬を救ったのは、大学の後輩である章子だった。

なんとなく由利の雰囲気に似ていた章子に、高瀬は恋をするのは当然のことで、でも時間が経つにつれやはり由利ではないことに気づく。

でもだからといって、章子が悪いわけではない。

悪いのは、全て自分なのだから。

初めての恋をこの歳まで引きずり、未だに消化できない自分が一番悪い。

そんな男と一緒になっても、幸せを感じるわけがない。

だから、章子は出て行った。誰もが納得出来る話しだろう。

分かっている。そんなことは分かっている。

分かっているけど、どこかで分かりたくない自分がいる。

まだ、尾道にこだわり続けている。

だから、新婚旅行と称してまたこの場所にきていた。

海外に行きたがっていた章子を、無理矢理言い包(くる)めて。

もう一度由利に逢いたかったから。

逢って、ただ謝りたかったから。

いや、本当にそれだけなのだろうか。

あわよくば、なんてそんなうまい話はあるわけがない。

でも、でも、でも―――。



作品名:Neverending Story 作家名:ミホ