Neverending Story
「ねぇ、ロープウエイとか乗って、景色とか見る?それとも、商店街で買い物でもする?」
「そうだな…、時間は沢山あるから、君のお勧めの場所にでも連れてってくれないか。たぶん、ここに来るのはこれで最後になるかもしれないから」
「えっ?そうなん?なら、浩ちゃんが尾道を忘れないように、坂道巡りでもしようかな?」
「坂道?」
「そう。いろんな坂を上ったり下ったりして、明日、筋肉痛で動けなくなるんよ。いい想い出でしょう?あっ?でも、歳を取ると筋肉痛って三日後とか四日後とかにくるんでしょ?じゃぁ、またおんなじ道をまた歩くんよ。そしたら、北海道に帰った時、暫く動けなくなるの。どう?いい想い出でしょう?」
と言って、唯が愉快そうに笑った。
「どう?って…。人を殺す気か、君は?そんなんなら、君に案内を頼むんじゃなかったよ」
「今更、断っても無理なんよ。最後まで付き合ってね」
はいはい、分かりました。
と、高瀬はため息混じりに返事をした。
本気なのか冗談なのか分からない提案に、それはそれでいいのかもしれない、と思った。
どこかで座ってじっくり話すよりも、ブラブラ歩いて他愛もない話をした方が気楽だと思ったからだ。
高瀬は、女性と話すことがどこか苦手であった。
仕事として話すことは苦にならない。
けれど、仕事から離れたところで何かを喋るとなると、何も話せなくなってしまう。
上手く言葉が出てこなくなるのだ。
もしかしたら、章子はこの面白みのない性格に嫌気をさしたのだろうか。
夫婦の会話もない空間が、たぶん苦しかったのだろう。
だから、出て行った。
そう考えれば、全て辻褄(つじつま)が合った。
高瀬は、別れの原因が少なからず自分にあることに、今更気付いた。
ずっと、別れの原因は妻側にあると思い込み、妻のせいにしてきた。
章子に男が出来たのだと思い続け、恨んできたのである。
でも、一方で妻の噂を聞くたびに、男が出来た、とか、結婚する、とかの浮いた話が全く出てこないことにも疑念を抱いていた。
小さな街だから、イヤでも情報は入ってくる。
それ故に、別れの原因が分からないまま、ただただ悶々と毎日を過ごしてきた。
でも、それも今日でおしまいなのだ。また二人でやり直せるのだから。
だから、次は自分のことより妻のことを思い、そして生きてみることにしよう。
もう二度と、こんな辛い思いをしたくない。
それに、この歳で、愛とか、恋とかはもういい。というより、無理だろう。そんな体力もない。
今は、ときめきよりも、穏やかな生活を送りたいし、自分はそれを求めている。
だから、早く帰ろう―――。
作品名:Neverending Story 作家名:ミホ