After Tragedy1~プロローグ~
「ちょっとキュオネ、はしゃぎすぎ!ここは、人間界の領域なのだから少しは警戒をして!」
感傷に浸りつつもデメテルはキュオネに注意を促した。
「大丈夫だよ!私が神殿の地下の牢屋から来たなんて誰も分からないもの!!!」
キュオネは、走るのを一旦止め、振り向いて、笑った。確かにキュオネは、神殿の一番厳重な鉄格子の牢屋でキロ・ウインドスと一緒に生活をしている。けれども、そこがデメテルの言っている問題ではない。
デメテルがキュオネに対して注意している理由は、キュオネが今着ている服装が精霊の正装であるところだった。
世界が神界と人間界に分かれる直前の頃から、人間は精霊を殺し魔力を奪うようになっていた。だから、精霊の正装を着ているキュオネは標的にされる危険性があった。
しかし、世間知らずなキュオネは自分の服装が精霊の着るものであるということを分かっていない。それどころか、彼女は自分の母親が精霊レーニス・フェアリースであるということも知らない。だから、彼女は見当違いなことを言い、笑った。明るい日の光に彼女の髪が当たり、キラキラと輝いた。
その眩しすぎる笑顔をデメテルは壊さなくてはいけない。そう思うとデメテルは悲しい気持ちになった。
今日、デメテルがキュオネに会い、彼女を連れ出したのには理由があった。
神殿から人間界の門を潜り、左に逸れて1本道。そこには、だだっ広い草原があり、その先に石の塀で囲まれた小さな小屋がある。その小屋の前に立っている1本の木が今日の目的地だ。
そここそが、レーニスが殺され、シーが亡くなっていた悲劇神話が起きた現場である。
今日のデメテルの目的は、キュオネに彼女の本当の両親について話すことだ。
作品名:After Tragedy1~プロローグ~ 作家名:未花月はるかぜ