After Tragedy1~プロローグ~
「ううん、平気!」
僕は顔を上げ、改めてシー兄ちゃんを見ると、ドキッとした。
シー兄ちゃんは目にクマが出来、泣いた形跡があり、いつもとは明らかに様子が違っていた。僕は自分の心臓がドキドキと急激に早くなっていくのを感じた。
「レーニスを守れなくて、ごめんな…。」
シー兄ちゃんは僕に謝った。僕は酷い顔をしていたのだと思う。疲れ切ったシー兄ちゃんが僕を気遣ってくれる。それが悔しくて仕方がない。
「シー兄ちゃんの所為じゃないよ!」
僕はシー兄ちゃんの目をじっと見つめた。そんなことはないって、僕は伝えたかった。
「…。」
シー兄ちゃんは僕の目を見ると、微笑んだ。
「ユクスは大きくなったら、大切な人を守るんだよ…。」
シー兄ちゃんは悲しそうな顔をした。
僕はシー兄ちゃんのその言葉が悲しかった。
シー兄ちゃんは、恋人のレーニスを守れなかった。それは凄く悲しい事に違いなかった。何とかすぐに笑顔を作ろうとする顔を、僕は泣きそうな気持ちで眺めた。シー兄ちゃんの目は涙を溜めているのか、キラキラ光っている。
「じゃあ、僕はシー兄ちゃんを守る!」
僕はシー兄ちゃんの身体を抱きしめた。シー兄ちゃんの身体は少し強張ったけれども、程なくすると緊張がほぐれていくのを感じた。だから、僕は少しだけシー兄ちゃんの力になれたような気がしてほっとした。
だけど、シー兄ちゃんの悲しみは、そんなことで何とかなる訳なかった。
作品名:After Tragedy1~プロローグ~ 作家名:未花月はるかぜ