After Tragedy1~プロローグ~
「でも、私がレーニスの娘なら、デメテルはお母さんには預けないはずでしょ。お母さんは、神様に逆らった極悪人で、一番厳重な牢屋にいれられていたはずでしょ。そんな人に天才と言われたレーニス・フェアリースの娘を預けるわけがない。だから、デメテルが私のことをレーニスの子供だと言わないうちは、それは看守達の嫌がらせだと思おうって決めていたの。」
「ごめんね。」
デメテルは他の神々とは違い、比較的人間とは近い距離で話すことが多かった。それは、審判の神という立場から考えると一番不釣り合いな立ち位置ではあったが、その立ち位置がかえって彼女のコンプレックスになり、彼女は誰よりも相手の立場になろうと努めた。だから、デメテルはキュオネを思い、胸を痛め、頭を下げた。それでも、今日の目的を果たさなくてはいけない。
「14歳は人間の成人年齢と定められているのね…。だから、あなたにはこれからのことを決めて貰うつもりだったの。」
デメテルは話を切り出した。
「私はお母さんの側を離れなくちゃいけないの?」
キュオネは不安そうに聞いた。キュオネの不安はそこにあるらしかった。
「そうではないわ…。ただ、あなたはレーニスの娘であるから、神界の中にも籍を置くことができる。」
デメテルは14年間頭に描いていた言葉を彼女に言った。
「だからね、人間のウインドス家のキュオネではなく、天才であった風の精霊レーニスの娘として生きていかない?牢屋での生活をやめて、外にでてこない?」
デメテルは釈放許可書をちらつかせて、キュオネに笑いかけた。釈放許可証は風に吹かれ、ひらひらとしている。それをキュオネはじっと見つめた。キュオネには学がないので文字が読めない。なので、そこに書かれた文字を読み解くことは出来ない。
「いい…。私はお母さんの娘でありたいから、地位はいらない。」
デメテルはそれを聞くと、14年前の事を思い出し、安心したような表情をキュオネに向けた。
作品名:After Tragedy1~プロローグ~ 作家名:未花月はるかぜ