So Wonderful Day
ワーカーホリックでも今の方がよほど良いとジェフリーは思った。マクレインを辞め二年後に再会した時のリクヤは、そのまま独りにしておくといずれ消え失せてしまうのではないかと錯覚するほど、静かで影が薄かった。アシェンナレイクサイドに移った後のリクヤは、生き生きとしてとても魅力的だ。ユアンはよく「彼はとてもきれいだよ」と言った。看護師達がリクヤを評して使う「charming」ならまだしも、「beautiful」はリクヤより、豪奢な金髪と鮮やかな青い瞳の持ち主であるユアン・グリフィスにこそ相応しい単語だった。ユアンの目は「恋」と言うフィルターで被われているからだと当時は聞き流したが、しかし今ならジェフリーも同意出来る。フィルターの威力はまことに凄まじい――いや、素晴らしい。
「あれ? ミセス・ブラウン? どうしてそこに?」
ジェフリーの意識はリクヤの声で現実に引き戻された。と言っても声は携帯電話の送話口に向けて発せられたものだ。
バートン家にかけた電話に出た人物は、ミセス・ビクトリア・ブラウンだった。リクヤに猫の膀胱炎まで診察させる、あの老婦人である。住まいはバートン家の隣だが、縁戚関係ではない。
「ええ、そちらへ向かっているんですが、この雪でなかなか。はい、はい、わかりました。お願いします」
殊勝に応えて、リクヤは電話を切った。
「なんだって?」
「子宮孔が十センチになったらしい」
「じゃあ、間に合わないじゃないか。どうするよ?」
「大丈夫、ベテラン助産師がいるから」
リクヤはそう言うとニヤリと笑った。
作品名:So Wonderful Day 作家名:紙森けい