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御堂さんちの家庭の事情

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「ね。なんか兄さんも、さんざんぶーたれてた割には安らかに寝てるし」
「一若様は、昔から奥方様にお弱くいらっしゃいます故……それはそうと小姫様、そこな毬男なるちょび髭に羽の生えた亀が突っ込んできておりますが、それはそのままでよろしいので?」
「なんだかんだでマザコンなのよ。迷惑かけられてる割にはお兄ちゃん、報われてないのに……え、あ、ちょ、だめ、避けなきゃ、来ないで、いやぁああああ!?」
 口でけっこう酷いことを言う割には、お兄ちゃんがそんなママをとても大事にしてるってことを、あたしも巽も、ガルちゃんだって知っている。
 もちろん、あたしも、巽もそうだけど。なんにもできないひとだけど、皆なんでだかそんなママのことが大好きなのだ。
 そういうとこ、ママは得だと思う。得って言うよりは、これはもう、親子なのだからしょうがないのかもしれないけど。
「っていうか冱、さっきも同じ所で死んでるよね。ほんと冱の不器用なとこってお母さん似だなぁ……さて、そんじゃもうそろそろやめて寝ようか?好い加減、夜中過ぎちゃったし」
「それが宜しゅうございますな。夜更かしは非行の始まりと申しますれば」
「非行の始まりって、そこはガルちゃん、推奨しないといけないとこなんじゃないの?悪の組織の幹部としてはさぁ」
「いやいや、悪事と非行はまったく違いまするぞ、小若様。ゆめゆめ勘違いなさらぬよう」
 ゲーム機のコントローラーを放り出して喚いたあたしを笑って、巽が電源を切った。
 布団から這い出してあたしが放り出したコントローラーを拾いに行ったガルちゃんが、巽の冗談に不満そうな声をひゃんひゃん上げるのをじと目で睨みながら、あたしは唇を尖らせる。
「不器用なのは認めるけど、ママほどじゃないわよ。一緒にしないでよね……あ、そうだ!」
「何?冱、どうしたの?」
「ち、小姫様?もしや喘息の発作でございまするか」
 そうして次の瞬間のひらめきに、あたしがぼむ、と思わず枕を叩いたら、巽とガルちゃんはびくっとして目を見開いた。
「何言ってるのよ、バカね、そんなんじゃないったら。良い方法を思いついたのよ」
「良い方法?良い方法って何が?っていうか何の?」
「もう忘れたの?やあね、ほんとダメな弟なんだからあんたってば……あのね?明日の朝早起きして、門の内側で佐藤さんとこの駄犬がやってくるのを見張ってやるのよ」
「あ、あのバカ犬をでござりまするか」
「ええ、そうよ。そんで糞をしに来たところをつかまえてふんじばって、油性マジックであのマヌケな顔に眉毛をかいてやるのはどうかしら。思いっきり太っといのをかいてやれば、恥ずかしくて外を歩けなくなると思うのよね」
「…………」
「ふんじばるのはガルちゃんが手伝ってくれるでしょ?ああ、眉毛じゃインパクトがたりないって言うなら、額に肉でもいいわよ。ぐるぐるほっぺでもなんでも、巽は巽の好きなものを書いたらいいと思うわ、眉毛はあたしが書くから。思い切り恥ずかしい目にあわせてやりましょう、皆で。ね?」
 良い案でしょって、あたしが自信満々に言ったら、巽とガルちゃんはしばらくぽかんとした。
 それから顔と顔を見合わせて、俯いて、申し合わせたように口元を抑える。一人と一匹のその肩が小刻みに震えてるのに気がついたとき、あたしは思わずむっとした。
「……何よ。巽もガルちゃんも、何笑ってんのよ」
「別に……あのね、冱。正直に言うけど、僕、冱のそういうとこ好きだよ、凄く」
「ええ、ええ、我も小若様と同じ意見にございまする、小姫様」
 巽がくつくつ喉で笑いながらそんなことを言った。ガルちゃんもそれに倣って頷いて、あたしは目を丸くする。
「今更気持ち悪いこと言わないでよ。熱でもあんの、あんた。ちょっとオデコ見せてみなさいよ」
「思ったことを言っただけだよ……ほら、明日早起きするならもう寝なきゃ。僕、あのバカ犬には多分パンダ目が似合うと思うんだ。目の周りをこう、ぐりぐりっと塗りつぶしてやるの」
「御使用になられるのは、一若様がお持ちの「ゆせいぺん」とやらが宜しいかと思われまするぞ。以前、お洗濯の際にそれでつけられた汚れが落ちぬと、一若様がいたくご立腹でいらっしゃいましたゆえ……よろしければ明日の朝までに、我がこっそり一若様のお部屋から拝借して参りましょうか」
「……やあね、巽、ガルちゃんもなかなか考えるじゃない」
 巽とガルちゃんの提案は見事だった。
 ガルちゃんはともかくとして、「立派な悪の手先」にならなきゃいけない我が弟の将来が、ちょっと楽しみだ。
「そりゃ僕だってたまにはね」
「たまにはと言わず、いつでもこのように楽しく悪事を考えて下さるなら、我も安心なのですが……まぁ、御子様方はまだお若くいらっしゃれば、今後の楽しみとしておきましょうな。ささ、お二方ともお早くお休みあれ。もう夜も遅うござりまするぞ」
 ウチにあのバカ犬を縛れるようなロープなんてあったかしらって、あたしが考え込みながら誉めたら、巽は少し得意そうな顔をした。
 それから忙しく部屋中を走りまわって電気を消したり、頭でぐいぐいゲーム機を押して片づけたりしてるガルちゃんに言われてごそごそ布団にもぐりこみながら、顔だけあたしのほうに向ける。
「はいはい、言われなくたってもう寝るよ。じゃあお休み、冱。ガルちゃんも、また明日ね」
「うん、お休み」
「はい、御休みなさいませ」
 巽が言って、ごろんとあたしに背中を向けた。
 あたしは枕に頬杖をついて、テレビの青い灯りにぼんやり見えるカレンダーの日付を確認する。
 明日はクリスマスイヴだ。早朝にはパパが帰ってきて、ケーキを作るパパがたてる物音で台所が少し五月蝿くなるだろう。クリスマスケーキを作るのはママと出会った頃からの、もう我が家の伝統になりつつあるパパの大事な仕事だからだ。
 その前に、ママとお兄ちゃんが一緒に寝てるとこを目撃したパパにお兄ちゃんが苛められたら可哀想だから、パパが来る前にお兄ちゃんを起こしてあげなきゃならない。自分の息子に嫉妬するパパもなんだかなぁ、と思うけれど、それってやっぱり、例えそれが血を分けた息子でも、自分以外の男にママが懐いてるのが気に入らないっていう一種の愛なのだと思うので、いつも何も言わないことにしている。
 なんだかんだで、パパがママをすごく愛してるのは事実だ。ママはそれをちゃんと知ってるから、もうそれだけでいいんだろう。それはもう切っても切れない問題で、どうしようもないことなのだ。あたしたちが口出ししてもしょうがない問題でもあるし。
 そして、それでもそうやって全部が丸く収まってるんだから、まったく家は幸せな家庭だと思う。
 自分で言うのも何だと思うけどそう思ってしまうし、実感してしまうって事は多分、そう悪いことじゃない。ガルちゃんが言うみたいな「人類の敵一家」としては、失格なのかもしれないけどね。
 欠伸をしながらそんなことを考えて、ふと隣を見たら巽はもう寝息を立てていた。