移ろいの中で (1月9日 追加)
オーラ
その女性のピアニストを知ったのはもう随分前のNHKのテレビ番組だった。
クラシック音楽やそれにまつわる番組はいつも私のほうが熱心に見るのだが、この日は妻がたまたまチャンネルを合わしたのだった。
そこから流れるピアノの音色にいつになく妻はじっと聞き入っていた。
なんなんやろ・・・この引き方・・・・この音楽私もなぜか引き込まれるのだった。
一部の人によく言われるのだけど、そんなに機関銃のように弾くテクニックがあるわけでもなければミスタッチは多いしあれでプロか!あんなのどこがいいのだ!!
それは分かってる、
しかしそれは絶対ではなく、人にはそれぞれの表現方法があり感じ方も様々なのだ、今まで聞いてきたものは違う世界がそこにあったのだと感じた。
その後このピアニストの表現する、まさしく音楽に入り込み、そして音楽とは何かっていうことが始めて体感できたときだった。今まで有名コンクールで入賞したと胸を張る演奏では満足できなかったがこの人の演奏だと、なるほどと感じられ金を払ってでも聴きたいと思った。
よくあの人はオーラがあるということがある、目に見えない魅力、存在感のことだが
皆さんは光背とかオーラとか見たことがありますか?
私はこの人のコンサートで始めて光背と言うものを見た。
それは番組が放映された翌年大阪であったコンサートに行ったときのことだった。
高知から夫婦で飛行機に乗り、大阪へ向かいその日は大阪のホテルに一泊してまで聞きたかった。空港から市内へは道路が込み演奏に間に合うかどうかハラハラして向かった思い出の演奏会。
800人ほどの満席の会場にゆったりと現れたピアニストがピアノに付くと、会場から拍手が起こり、軽く会釈をするとピアノにつく。それまでざわついていた観客の息がシーンと水を打ったように引いていくと、まさしく物音一つしない、それでいて会場の人間の気持ちが演奏を迎えようと一つになった時だった。
弾き出すまでの少しの間。そう、観客がピアノの音色を聞き取ろうとする僅かの時間。その時にキラキラと光る光の束のようなものがピアノから沸きあがり天井に向け立ち上ったのだ。とても崇高で透明感のある黄金の光の束とでもいうのだろうか。うわ~~凄いな!!って思った時、ポ~ンと演奏が始まったのだった。その後は泉のように沸き出る音楽と言うのだろうか、音に包まれた心地よい時間が流れた。
その光景を体感して始めて、その昔仏師が光背を表現するのに背中から放物線の金箔の棒状の物を使っていることになるほどなあと思ったものだ。
作品名:移ろいの中で (1月9日 追加) 作家名:のすひろ