移ろいの中で (1月9日 追加)
ギターリスト
私にセンスがあるのかと聞かれれば分からないとしかいえないが、他人から見るとあるといわれます。人の考えや感性ってそんなもので波長があえばあの人は分かっているというし、合わなければ分からないというのでしょう。都合よく出来ているものです。私に感性があったとしても使わない才能は無きに等しいのことわざ通りなんの役にも立ちませんので気にもしません。
あるときギターリストのコンサートを開きました。若手で優勝した経歴を持つ若者で面識は無かった。ただ若い人の発表の場を提供できればいいし、少しでもお金にしてあげればいいと企画したものです。
その時の曲を彼は練習しています。私は初めて聞く曲で名も作曲者も知らず、掻き毟るような曲なんだなと聞いていましたら、何か違うと感じましたので、そこでイメージを彼に話します。
「そこね、何だか違うように感じる。そのフレーズで私の浮かぶ場面はニューヨークの人々を写したモノクロの写真がフラッシュで映し出される感じ。カラーではだめ。黒人も白人も老若男女モノクロポートレート中に街の風景が時々入りフラッシュで出る、だからあなたもそれをイメージして右手をもっと力抜いてダンと弾いてみてはどう?」
こっちは一応金の算段した立場ですからまあそれくらいのアドバイスはいいと思ったので身振りを加えいったのです。それを聞いた彼は目を丸めて驚き
「そんな聞き方する方もいるんですね」といったのです。そして
「この曲ニューヨーク何とか(忘れましたが)という題名です」というではないですか。
「でしょう、まんざらでもないよね」と私は笑い、彼はそれ以来力を抜いて弾く練習に励みました。勿論そうすれば曲の表情はずっと良くなりました、それもただ私好みだっただけかもしれません。その演奏会のMCとの打ち合わせ、曲目を話すると聞いたことも見たこともない。
「これは○○の映画のこれこれのシーンで使われています、明日までにご覧になればいい
私が今、その演奏は違うといった意味が分かると思いますよ」とアドバイスすると彼女夜中きちんと映画を見たそうで翌日私のところへニコニコしながら近付くと
「夕べ映画見ましたよ」というのです。
「そうですか、それは睡眠不足ではないですか」とねぎらうと
「いいえ、それより昨日おっしゃられた意味がよく分かりました。確かにあの演奏では良くありませんし、私も曲の紹介を良く考えました。教えていただいてありがとうございました」といってくれました。
馬鹿なおっさんの話を素直に聞いてくれ、同調してくれるのは誠に嬉しいものです。
作品名:移ろいの中で (1月9日 追加) 作家名:のすひろ