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移ろいの中で (1月9日 追加)

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エル・グレコと逆ナンパ

先日エル・グレコ展を見て、昔のことが蘇りました。
私がエル・グレコを始めてみたのは18歳、高校三年生の時、倉敷の大原美術館でのことです。それまでこの作家の名前は知っていましたが、それは画家としての名前より喫茶店の店名としてというのが面白いです。とにかく日本にはここだけの世界的名画「受胎告知」があり、その作者からその名が付いて居ると誰かから聞かされていた。今も営業しているはずですが、エル・グレコから名前をつけた、蔦が絡まる昔ながらの喫茶店が大原美術館隣にあると言うことはどういうわけか知っていましたが、この名前の作家がどういう人で、どんな絵を描いたかは知りませんでした。

 高校三年のある日、図書館でだべっていた美術好きの友人O君と「大原美術館へ行ってみん?」という話になります。特別美術に興味があった訳ではないのですが、小旅行、ちょっとした冒険感覚だったと思います。
 なんと言っても瀬戸大橋はありませんから、私たちは国鉄に乗り高松へ行くと、連絡船、宇野線と乗り継ぎようやく岡山です。そこから山陽本線で倉敷へ、時間は乗り換え含めると4時間は掛かったでしょうか。いまだと1時間半もすれば行き着き通勤距離ほどですが、当時はそれは遠い遠い場所でした。
 倉敷の駅を降りると商店街を抜けて暫く歩くと、美観地区に出ます。今は立派な駅を後ろに広い道を行けば「どーん」と美観地区が現れますが、当時は狭い商店街がオペラの序曲のように気分を盛り上げてくれました。さて美観地区に着くと、そこに蔦が絡んだ喫茶エル・グレコがあるわけです。それを見ると、どういうわけか「ここがうわさの店か!!」と感動するわけです。当然店に入ると、上下スライド窓の窓際にある四角いテーブルについてまずはコーヒーを飲んで移動の疲れ癒しますと、「有名店に来た」という、なんてこと無い自慢の一つになる時代です。一息つき隣の「大原美術館」へ行きますと石つくりのローマ宮殿風の玄関があり、正面にロダンのカレーの市民が立っていて、それを見るだけで「うわー本物のカレーの市民だ!」と感動しました。
 館内にはゴッホ、モネ、ゴーギャン、ルオー等々名前だけ聞いたことがあったり、教科書でしか見たこと無い超有名作家の名画がずらり並んでいるわけで、ジャコメッティの細い彫塑もそこで見ました。当然そこにエル・グレコの「受胎告知」がやや上のほうに掛けてあったと思います。何だか肌の色が悪い絵だなという感想を持ったのは今でも同じでした。
それらを鑑賞し、部屋を移動するとそこにはガラスケースに入った「瑠璃色の壷」が飾ってありました。当時は人も少なく静かに鑑賞でき、この時は人は誰も居なかった。私はこれを目にしてその色の素晴らしさ、美しさに見入ってしまい言葉も出なければ、しばしそこから動くことが出来なくなってしまいました。我に返って隣部屋にいた友人O君に「お前も見てみろ、この透明感のあるブルーは凄いぞ」と言ったはず。この時の印象は今でも鮮明に覚えていますので、やはり若いうちに本物を色々鑑賞するのがいいと思いますね。
 数年前、嫁さんを連れてここを訪れた際見たかったのは、そこの数ある名画ではなくこの壷でしたが残念ながら見ることは出来ませんでした。
あの壷はどこへいったのだろうか??
その後岡山にも縁がある棟方志功の数々も鑑賞、思い出多い作品の一つとなりました。