Yと楽しい草の話
「俺たち何にもしてないもんな!」
「うんうん」
頭の動きと連動して揺れるチューリップが風にそよぐ。直樹なんとなく手持無沙汰なので、頭を傾けて城也の花菖蒲の花弁をチューリップで叩いていた。
城也はなんとなく恥ずかしそうにしてされるがままになっている。こいつも暇なのだろうか。
「なーなー、ちょっと考えたんだけどよ、俺等ちょっと危なくね?」
何だか妙な雰囲気になりかけた二人の間に、万智が体をねじ込ますように割り込んできた。
「何がさ?」
「さっきちょっと職員室にスネイクしに行ってきたんだけどよー、なんか保健所に連絡するとか警察がどうとか、なんか大事になってるみたいだぜ」
「おいおい、十ページしかねーのにそんな面倒くさい話にする気力ねーぞ」
「おぉ、メタいメタい」
「花が咲いてる連中は、さっさとズラかった方がいいかもな」
「どうせ危ない研究施設に送り込まれてバラされちまうんだぜきっと」
「そんでグルメ細胞とか入れられたりするんだぜきっと」
「漫画の見すぎだろ」
「でもばらされるのは怖いな~」
「おい、残りのプリッツ誰か食うか?」
「俺貰いー」
「よっしゃ俺らもとっとと帰ろうぜ」
「自主休校、自主休校」
そう言いながら、花が咲いている連中は自分の荷物を纏めだした。直樹も自分のエナメルバッグに文庫本や筆箱や携帯電話を放り込んだ。もちろん教科書のほとんどは机の中で留守番だ。
その動きはだんだんと広まり、やがて別段花が咲いていない連中までもが早退の準備をし始める始末。
「おーいお前等・・・あっ、何してんだお前等!」
「ゲッ!中田!」
「お早いお帰りだなおい」
「せんせーっ!俺腹痛ー!」
「俺頭痛!」
「扁桃腺が死ぬほどいてぇ!」
「インフルエンザ気味だから帰るわー!」
「俺じいちゃん危篤っ!」
「俺ウォーリー探しに行く用事を・・・」
「コルァアアテメー等ぁああ!どう見てもサボりだろうが!戻って来やがれ!お前等はこれから保健所とかマスコミとか怪しげな学会とか、映画みたいな展開の中で揉みくちゃにされるんだよ!」
「うるせー!行きたきゃお前が行けフクロマン!」
「直樹!早く早く!」
「城也、お前の自転車乗せろよなっ!」
「マウンテンバイクで来たのにー!」
全員がまろび出るように自転車置き場に走り、大急ぎで鍵を外して飛び乗った。
「待たんかいコラァ!これ以上逃げるんだったら俺の愛機の錆にしちゃうぞー!」
「おい!やべーぞ、中田バイク持ってんだぜ!」
「安心しろ!さっきキャンプナイフでタイヤパンクさせてきてやった!」
「グッジョブ東野!」
直樹は城也のマウンテンバイクのタイヤの螺子に上手くコンバースのスニーカーを引っ掛けて城也の肩を引っ掴む。彼を乗せたトルコブルーのバイクは、昼前の学校を走り抜けていった。
「待てーっ!コラー!生物の評定下げるぞー!」
「元々一しかないもんどうやって下げんだよ!あーばよーとっつぁーん!」
「直樹・・・そいつぁやべーぞ・・・」
「俺がまた教えようか?生物」
「おう、じゃあ数学も頼むわ!」
「城也マジ頼んだぞ・・・こいつ進級できねーかもしれねーぞ・・・」