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Yと楽しい草の話

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これから陰鬱な文章が始まるような名作風に冒頭を飾ってみたが、現実はどうだ、辛うじて落ち着いて家族に助けを求めようとしたのに、血の繋がった兄たちはまさに外道の大爆笑。しかも病院のどこの課に連れていけばいいか分からないし金が無いという理由で、学校には行かされる。道行く人たちの視線、全てが痛い。
八坂直樹が魔導書を持っていたなら間違いなく、混沌の神を呼び出したくなるそんな朝だった。学校に着くまでは。
万葉高校一年二組。直樹はこの学級の一員である。
八坂直樹が朝学校へ来てみると、クラス中の人という人の頭からチューリップが生えていた。
「今更何でチューリップなんだろな」
「もう六月だよな」
「まあ頭からアジサイ生えてても首が折れそうになるけどな」
仲良しの東野進一郎、原万智(かずと)は幼稚園の時からの付き合いだ。が、そんなことは今どうでもいい。それぞれの頭からは白と黄色のチューリップが見事に咲いていた。
ちなみに直樹のは赤。プラスチックで出来ているような光沢を放つ花弁が目にまぶしい。
「なんで俺たちだけ揃いも揃ってチューリップなんだ?」
「あれじゃね、この間一緒に行ったガスト。あすこの店何か入れてたんじゃね?」
「ニンニクと間違って球根入れたとか?」
「そういえば万智はペペロンチーノ食ってたよな」
「バカヤローそんなわけあるかっ!」
「直樹たちはチューリップだったか」
「わぁお」
友神(誤字ではない)城也鎮が、直樹たちのクラスに顔を出すのは珍しくはない。直樹たちのようなちゃらんぽらんとつるんでいるのか分からないほど秀でた頭脳と常識を持ち、となりの一組(特進クラス)に通っている。しかしそんなの今の状況にはあんまり関係ない。その顔の上には、
「俺知ってる、こどもの日に風呂にブッ込むやつだぜ」
「花菖蒲な」
凛とした佇まいが美しい、紫の花弁を持つ花が咲いていた。
「一体全体どういうことだってばよ」
「俺が聞きてーよ」
「ていうかなんだよ、俺等の学校花咲いてるやつ多すぎねぇ?」
「うん。ここ以外のクラスにも生えてるぜ。このクラスには異様に多いけどな」
「なんだよ、その口ぶりからすると特進クラスもそうなのか?」
「オムロン。まぁ、目の前にいる俺に現在進行形で生えてんだけどな」
「オムロン・・・」
「この高校には春度が高い連中ばっかりだったってことだろ」
「おめでたい連中だぜ」
「頭からチューリップ生やしてる奴が言うな」
直樹はためしにチューリップの茎を思いっきり引っ張ってみる、と、悲鳴が出そうになるほど痛かった。誰のを引っ張っても皆そう。無理に引っこ抜こうものなら、頭蓋骨とかあんまりお目にかかりたくないものも頭皮をぶち破って出てきそうだ。
「このままじゃやばいんじゃね、パスポートの写真撮るときとか」
「あー、研修旅行だな」
「大馬鹿野郎、大学受験の写真の方が問題だろうが」
「つぅか大丈夫だよな?これ生えてても死んだり死ねーよな?」
「だとしたらこの上なく愉快な死に様になりそうだな」
「笑えねー・・・その葬式笑えねー・・・」
直樹たちは頭を抱えた。しかしその頭にはチューリップがついていたので、悲愴というよりかなりシュールだった。
そんな馬鹿なことをしているうちに、直樹たちの担任がやってきた。生物教師である中田は、本当に戦後の民主主義思想の中で育ったのか怪しくなるほど独裁者な性格をしており、生徒会執行部のバックに(どうやってか知らんが)ついて、抜き打ち服装検査だの持ち物検査をすることで、生徒からの人気は皆無。もし中田が他殺体で発見されたりなんかしたら、犯人は確実にこの学校の生徒の誰かだろう。
「おーい席つけお前等・・・ってなんじゃぁこりゃぁ!」
「太陽に吠えろだな」
「よく知ってんなぁ」
「お前等何生やしてんだ?えっ?何、突っ込み待ち?無いわー」
と言うと、中田は教壇の上で身をよじらせて笑い出した。どう見てもこの男この状況を楽しんでいやがる。
「うっせー中田ー!」
と、黄色いチューリップの原。
「お前なんかに俺らの気持ちがわかってたまるかー!」
と、白チューリップの東野。
「そうだそうだっ!」
「笑うだけなら死ね中田!」
「生物の評定を十にしろーっ!」
「先週の俺のジャンプ返せーっ!」
クラス中の花咲か連中共が、次々に中田に野次を飛ばし始めた。ホウセンカもテッポウユリもタチアオイも、エマルギナダもフウセントウワタもレティクラツム・オウァリウムも一斉に、だ。
「だーはははは!バカじゃねーの!俺みたいなただの生物教師がそんな謎の物体のこと都合よく知ってるわきゃねーだろ!つーかそれお前等が遊び半分で生やしてんだろ!あっはははははは腹いてえ!」
「ぐわぁあああムカツクー!」
誰もが、このクソ生物教師いつか細切れにしてホルマリンにぶち込んでやるから覚悟しろ、と思った。
と、その時
「おい!見ろ皆!」
「なっ、先生の頭が・・・!」
「あぁ!頭に!頭に!」
「あぁ?」
中田が訝しがりつつも頭に手をやると、そこには純白のマーメイドドレスを思わせる可憐な、しかし儚げな花が咲いていた。
「どえぇええ!?なんじゃぁこりゃぁあ!?」
「おめでとう!君はホタルブクロに進化した!」
「Bボタン連打しないからだぜ」
「どうでもいいけど、なんかフクロってつくとエロいよな」
「うるせーバカ」
全員、非情なる圧制者がアイスクリームの食べすぎで、ポックリ逝ったとでも言わんばかりに大爆笑した。
そのテンションの高さたるや、クラスの一部があまりの喜びにマイムマイムを踊りだす始末であった。
中田はうろたえつつも烈火のごとく怒り狂い、「今日の一限の生物は中止だぁあああ!」と叫んで、朝礼は未だかつてない荒れ模様を見せつけて幕を閉じたのであった。
他のクラスの連中もこの騒動を聞きつけ、クラスの外からこちらを窺いつつ、爆笑して写メを撮ったり、ナマコでも見るような眼をして去って行ったりと勝手なことをしてくれるおかげで、気分は動物園のパンダ気分である。が、無視すりゃ何とでもなるし、一人だけではないと考えれば大分気持ちも落ち着く。
急遽開かれた職員会議のおかげで他のクラスも自習となり、城也や他クラスの友人たちも二組にやってきていた。本来自習時間にこんなことをすれば教師に見つかって指導室行きなのだが、今日ばっかりは先生も全員招集をかけられたがために特別だ。
東野の差し出してきたプリッツを皆で齧りながら、全員が同じ色の溜め息をこぼした。
「やれやれ、それにしてもどうしてこうなっちまったんだか」
「俺が知るかよー」
「お前が知ってるとは思ってねーよ」
「おい、ニュースとかどーなってる?」
「ダメだ。念のため2ちゃんねるのまとめサイトも見てみたけど、頭からチューリップが生えるなんて記事は無い」
城也はそう言うと、薄型ノートパソコンを閉じた。
「マジかー」
「『地方高校の学生の頭に花がwwwww』とかいう記事が出来るんだぜきっと」
「そんで好き勝手書かれるんだろ?やだー!」
「まぁ、プリッツ食えよ、東野のだけど」
「サラダ味うまいよな」
「教員共きっと、俺たちがまたバカやったってくらいにしか思ってないぜ」
「まぁ、そーだろーな」
「中田にまでなんかしたって思われるぜ」
作品名:Yと楽しい草の話 作家名:なさき