DESTINY BREAKER 一章 3
女子A改め水野さんを押しのけケーキを差し出してくる女子B。
「あの、ま、牧村さんのケーキと一緒に、こ、紅茶などはいかがでしょうか?」
女子B改め牧村さんの後ろから手を伸ばし、片手の水筒を持って躊躇いがちに袖をちょんちょんと引っ張ってくる女子C。
「えっ、な、なに?」
うろたえる桜花。しかし、事態を把握しきってはいなかった。
「・・・だから、いわんこっちゃない。」
不満げに夏樹がボソッと呟いた。
そう桜花は楽観していた。物事は一つの方向に傾くのではなく、力の加減で予想外の方向にだって傾くのだ。それが今回はこうなったとそれだけのことである。
「えっと・・・ナツ?」
助け舟を期待しアイコンタクトで助けを求めると夏樹は
「桜花ちゃん紅茶好きなんだよねぇ。良かったね山下さん。よかったねぇ、お・う・か・ちゃん。」
と女子C改め山下さんの名前を明らかにしただけで自分のお弁当を広げ始めた。いつもより不機嫌な夏樹が騒動の火に油を注いだことに桜花は味方を失ったと直感した。
そのまま三人にもまれるように昼休みが終了。しかし事態は水面下で拡大していた。
噂の大好きないまどきの霧ノ宮女子高生。何故いままで草薙夏樹以外誰も近づかなかった千条桜花に仲良しグループの女の子が詰め寄っているのだと疑問に思う生徒は少なくなかった。そこでもう一つ桜花は失念していた。昨日の通りは霧ノ宮の生徒が学校帰りに比較的多く立ち寄る場所であり、加えて昨日は授業が午前中で終わり通りを歩いていた学校生徒の密度は平日のそれよりも高かった。それならば助けた女の子以外の生徒があの現場を目撃していないなんていうことはできるだろうか。案の定、桜花の噂は瞬く間に学校中に知れ渡ったのである。
それからは一時期大変だった。昼休みになると一日ずつ段々増えていく差し入れから始まり、人生初のラブレターを女子から受け取るという経験。仲良しグループが派閥をつくり学校内で内戦を勃発。そこで共倒れになることを恐れた派閥がお互い新しいルールを設立し、とりあえず沈静化したわけである。
「こんな女のどこがいいんだか。」
桜花は常日頃からそのような疑問を抱いていた。
ちなみに、新しいルールとは、
『千条様に迷惑をかける行為並びに過剰な個人アピールの禁止』
『プレゼントや直接的な告白ではない手紙は許可する』
『近づく男は排除すべし』
作品名:DESTINY BREAKER 一章 3 作家名:翡翠翠