DESTINY BREAKER 一章 3
桜花の中段蹴りは鋭く男の鳩尾に突き刺さり、横隔膜が衝撃によって正常に作動しなくなると、男は口から酸素を取り入れることができない状態になった。呼吸がままならない男の膝が折れる。その機を見逃さずに桜花は、よろめいて下がってきた頭に半月を描くように中段蹴りのかたちから振り上げた足を垂直に降下させ男の頭部に踵落しをお見舞いした。倒れた男は吐瀉物を道路に撒き散らすようにして気絶した。
あっという間の出来事。桜花は一呼吸で二人の男を戦闘不能にした。
動きに翻弄されるように揺れていた黒髪が重力を思い出したかのようにゆっくりと元の位置に戻ってきた。
「あっ、あ・・・」
もう一人の男は次々に倒される仲間を目の前に半泣きになりながら、最後は二人を置いて逃げてしまった。
「ふぅ。」
桜花が電光石火の速さで男達を撃退し、夏樹と後ろの子たちの無事を確認すると安堵の溜め息をついた。幼少のころから祖父に護身術として様々な格闘術を叩き込まれた桜花はこのくらいのことは朝飯前だったが。もう少し自分を抑えることを学ぶべきであろうかと悩んだ。これでは心技体の『心』がぽっかり抜けてしまっている。
『やっちゃった・・・。』
可能な限り手加減したはずなのだが、思いのほかうまく当たりすぎた。そもそも、全て相手を無力化することが目的であって殺すつもりなんてない。そんなに怯えるなら最初から恐喝なんてするなと言いたかった。それに男だったらもうちょっと鍛えたらどうなの?とも、見当違いながらちょっぴり思ってしまった。
何より今の一件で自分に怯える人口が増えてしまったことにも溜め息をつきたくなった。
「あ・・・あのっ。」
桜花が倒れた夏樹に手を差し伸べ怪我がなかったか確認していると先程泣いていた女の子の一人が話しかけてきた。
「先ほどは・・・。」
「ああ、えっと、何と言うか、ジェラートを食べていたら怒鳴り声が聞こえて、近づいたらあなたたちが泣いていて、私の友達も突き飛ばされて、そしたらカッとなって・・・。」
作品名:DESTINY BREAKER 一章 3 作家名:翡翠翠