ろんぐ・ぐっどばい
Episode.2
早矢パニックの熱気も冷めかけた放課後。未だショック状態のあたしは性懲りもなく教室にいる。腑抜けた惚け、魂の抜け殻のようになって頬杖をついて窓から外をぼんやりと眺めている。心の大切な部分がごっそりと抉られたような、そんな喪失感。
早矢を遠くから見ていればそれで満足だった。言葉を交わせなくても、その笑顔を見てその姿を見てあんまり巧くない黒板の字を見て、一緒の空間にいて同じ空気を吸っている。そんな些細なことで充分満足だったのに。それなのに。
明日からはそれもできなくなっちゃうなんて。
心臓が痛いくらい早く打つ。息が苦しくて、涙が一筋毀れたら、もう後は歯止めがきかない。あとからあとからとめどなく涙が溢れて、誰かが見ていたらヤバいから、声を出して泣けなくて。
早矢の席に座ってみる。机の中は潔くからっぽ。毎日毎日さりげなく、それでもいつも視界に入れていたこの席。毎日早矢がこの椅子に座って、この机で勉強して、時々居眠りして。ここに座れば早矢のぬくもりが少しは感じられるかな、なんて妄想したけど、やっぱりそれはホントにバカな妄想で。
下校の鐘が鳴る。
タイムリミットは着々と近づいている。
明日一日。早矢と同じ空間を共有できるのはあと一日しかない。
このままじゃいや。
何もしないでこのままお別れなんて絶対いや。
涙をぬぐって顔を上げ早矢の席から窓の外を見る。
夕暮れは足早に黄昏を連れてくる。明日はもうすぐ。別れももうすぐなんだ。
その日は一日授業どころじゃなかった。あの表情の一瞬一瞬が見納めかと思うと、どうしても早矢を意識して視線を執拗に投げかけてしまう。取り巻きは相変わらずしつこくべったり張り付いていてとりつく島もない。
時間は無情にも規則正しく過ぎていく。放課後なんてあっという間。いつもはかったるい授業なのに、時間なんて亀の歩みみたいに超絶遅く感じるのに、なんだってこういう時は慈悲のかけらもなく素早く過ぎ去っていく?
HRも終わって下校。早矢とその取り巻きはこの後どこかの店で集まるらしい。今さらながらホント後悔。こんなに別れが突然訪れるならば、勇気だして友達になっておけばよかった。そうしたら何の迷いもなく、あの取り巻き立ちと一緒に最後の時を共有できたのに。
クラスの皆は名残惜しそうにダラダラと早矢に最後のあいさつを交わしている。彼女達にとってみれば、早矢はただの友達。いなくなったらなったですんでしまうその程度のもの。早矢に対する存在の重みがあたしとは全然違うんだ。それならそうと早く教室からいなくなれ、皆!