ろんぐ・ぐっどばい
Episode.1
「早矢が転校?」
あまりの驚愕にあたしの脳内は真っ白になった。教室の、クラスメイトのざわめきがすっと遠くなり、椅子に座ったまま身体が固まる。瞬間、世界に取り残されてひとりぼっちになった感じ。
「そう。私も今日初めて聞いたんだけどね、学校来るの明日の金曜が最後だって」
「うそ! あたしそんなの全然聞いてないし!」
「なんか早矢、同じグループや部活の連中にしか言ってなかったみたいだよ。知ってるヤツはもう一週間以上前から知ってたみたい」
「そんなあ……」
「しょうがないよ、莉生。私たち違うグループだし、そんなに仲良くなかったし」
ひどい。そんなのってひどすぎる。
そりゃあ奈津の言うとおり、クラスでも地味で目立たないあたしとは違って早矢は人気者。いや、人気者ってレベルじゃない。もはや皆の王子といってもいいくらい。バスケ部所属の賜物、女子にあるまじき百七十七センチの長身にウルフカットが良く似合う。まさに男子顔負けのイケメン。そうは言ってもここは女子校だからあたしはイケメン男子の実物を知らない。でもきっと早矢はヘタな男子よりきっとずっとカッコいいはずだ。うん、そう。そこらで見かける男子よりホント素敵だもの。
クラスではいつも賑やかな取り巻きに囲まれて、あたしと接点はない。交わした言葉もクラスが一緒になったこの一年間でたったの二言三言。会話の内容なんて緊張してて既に忘却の彼方。早矢にとってあたしはきっと印象の薄過ぎるただのクラスメイトのひとりにすぎない。そんなことは前々からわかってたけど、今回でさらに思い知らされた感じがする。しょうがないけど、でもひどい。やり場のない怒りをいったいどうしたらいいんだろう?
そうだよ、あたしは早矢に一目ボレだった。クラスが一緒になって初めてその姿を見たときから。
「あーあ。早矢がいなくなると学校に来る楽しみがひとつ減るなあ。あのボーイッシュ王子拝むだけでもこの不毛な女子校ライフの慰めになってたのに」
奈津はそういって早矢に視線を向ける。当の本人は、決定的事実を知らされた他のクラスメイトにとり囲まれて大変なことになっている。できることなら自分もあそこに混ざりたい。でもその勇気がない。そんな羨望と嫉妬とあきらめがぐちゃぐちゃに混ざったこの気持ち。単なる嫉妬とわかっていても、見ていてなんだかとっても嫌だった。奈津や他のクラスメイトたちの、早矢に対するその軽いノリが。
あたしは違う。早矢が好き。本当に大好き。早矢が意外と抜けているところとか、取り巻きから離れてほっとした表情とか、試合でうまくいかなくてひとり教室で泣いていたところとか。そんな誰も知らない早矢の顔。奈津をはじめ他の娘たちみたいに一時的な鑑賞用もしくは愛玩的なノリで好きなわけじゃない。あたしはずっと好きだった。同じクラスになったその時から。許されるものならば早矢の彼女になりたい、いや、逆に彼女にしたいくらいに早矢が好き。