おちていく…
その日を境に、愛子が残業する日には矢田も残るようになっていた。
一人で残業をすることに慣れていた愛子は、最初は矢田の存在が気になりペースが掴めなかったものの、
時間が経つにつれ慣れていった。
今では一人で残業をすることが、淋しくもある。
残業が終わると、二人はいつものあの居酒屋でたわいも無い話しをしながら
食べたり飲んだりする、そんな日々を繰り返していた。
矢田とこういうふうに行動を共にするにつれ、愛子の心には恋心が芽生えて、
それは大きく育っていき始めていた。
けれど、その気持ちを心の奥底にしまい込む。
恋愛関係よりも、もしかしたらこんな関係の方がラクなのかもしれない、
と無理矢理思うことにしていた。
矢田は、あの日以来、愛子に恋の話をしなくなった。
話すことと言えば、いつも家族の話ばかり。
だから、愛子は自然と自分には気がない、と思うしかない。
たまたまあの時の私は、失恋をして心が淋しかっただけ。
淋しかった…
淋しかっただけ…
そう、私はただ淋しかっただけ…
だから、誰でもいいから抱き締めて欲しかっただけ…
ただそれだけ…
それだけなのだから、また新しい恋を見つければいい。
新しい恋をすれば、課長を忘れることが出来る。
課長を好きになったことも、忘れてしまう…
と、愛子は自分に言い聞かせる。