おちていく…
その日から、コピー室は二人の密会場所となった。
まっさらな用紙を渡されては、愛子はコピー室に入る。
数分後、矢田が追い掛ける様にして部屋に入っていく。
そこから数分から数十分間の情事を行い、矢田は愛子を置いて先にデスクに戻り
何食わぬ顔で愛子から用紙を受け取る。
そんな日々を、二人は繰り返していた。
「じゃ、今日の夜。いつもの時間で行くから、待っていなさい」
行為が終わると、矢田の背中は急に遠くなる。
どうしていつも、私を置いていくの?
どうしていつも、私だけ置いてけぼりなの?
聞きたくても聞けない。
そんな心がもどかしかった。
それと同時に付き纏う、矢田の妻の影。
矢田と付き合うと決めた時から、覚悟をしていた。
矢田には必ず帰る場所がある、ということ。
一番にもなれない、ということ。
この恋愛自体が、秘密だということを、愛子は重々に分かっている。
けれど、どうしようもないくらい苦しくなることがある。
こんなに苦しいんなら、不倫なんてしなきゃ良かった。
何度も愛子は思い、そして後悔する日々を送った。
最初、矢田との付き合いを軽く考えていた。
フツーの恋愛よりもラクだと思ったから。
イヤだったらいつでもやめれる。
別れられる、と思っていたから。
なのに現実は違った。
ラクだったはずの恋愛は、ただ苦しいだけ。
楽しいはずだった恋愛は、ただ辛いだけ。
そして別れる切っ掛けすらも失い、ただただ無駄にも思える月日が過ぎ行く日々―――。