小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Refresh

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 フロアに戻った。横井はそそくさと自分のデスクに向かっていく。村田も席に着こうとした所で、課長の小池に「村田くん」と呼び止められた。
「なんでしょう」
「村田くんね、本社の経理部長の岡野さんが、明後日うちの工場へ視察にくる話は聞いているだろう」
「はい」
「実はその…岡野部長のおもてなしを、村田くんに頼みたいんだ」
 村田は思わず表情を曇らせた。本社の岡野部長の姿は、村田が新入社員の時に本社研修へ行った際、1度見たことがある。緊縛から解放されたボンレスハムのような肉体に、大仏みたいな頭が乗っかった、年齢はおそらく50代後半の、女性だ。実際は「女性」などという言葉が全く似つかわしくない程に、醜怪で荘厳なオーラを放っている。そんな岡野部長の「おもてなし」を、ただでさえ疲れきっているであろう週末にやらせるというのか。大体、そんな役目は…
「いや、分かってる。そういうのは普通、新人の役回りだよな。しかし実は、あんまり広めちゃ駄目なんだけどさ、高橋のやつ、最近クラミジアにかかっちゃったんだよ。びっくりするだろ。ほんと、今の若いやつはおとなしそうに見えて、陰ではとんでもねぇことしてやがる。とにかく、さすがに性病かかってる社員に、岡野部長の相手はさせられないだろう。な、頼むよ」
 村田は、少し離れたデスクにいる高橋の方を一瞥した。こちらの様子が気になっていたのであろう高橋と目が合い、彼は気まずそうに視線を落とした。今年入社してきた高橋は、人見知りな性格で、仕事中のコミュニケーションの仕方も、どこかぎこちない。おそらく、村田と同じ、営業の仕事をするのが嫌で、経理を志望したタイプだろう。その分、コツコツと実直的に仕事をこなす、真面目な人間だと思っていたが、なるほど、実は以外にぶっとんだ一面があるのだなと、村田は思った。ゴム無しリフレッシュの危険性なんて、小学校の頃から嫌というほど聞かされているはずなのに。
 結局、課長の頼みを断るわけにもいかず、村田は岡野部長への「おもてなし」を引き受けることになった。
「なに、君まだまだ若い。バイアグラを飲めば何のことはないだろう。では、そういうことで」
 言いながら村田の肩を叩き、課長は自分のデスクに戻っていった。バイアグラは職場の備品コーナーに常備されており、実費で購入する必要はない。しかし、他部門に対して日々費用削減を訴えている経理部が、自部門の偉いさんである大仏をもてなすためのバイアグラに会社のお金を使うなんて、一体どうなんだろうか。
 ようやくデスクに戻った村田は、再び作業を開始した。しばらくして定時の鐘が鳴ったが、片付けなければならない仕事はまだまだ山ほど残っている。最後に定時退社をしたのはいつだっただろう。世の中には、自分の夢を追いかけて、キラキラした人生を送っている人達もたくさんいるというのに、自分はただ、仕事の締切に追われるだけの日々を過ごしている。追いかける人生と追われる人生は、天と地ほど違う。
作品名:Refresh 作家名:おろち