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花狂い京女

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 過去のある三十女が、しきたりのうるさい十七代も続く神社の後妻に収まったのは幸運としか言いようがなかった。女は父の故郷である京都で骨を埋める覚悟であったから、京都の神社に嫁げたことは願ってもないことであった。今度こそ元気な子供を産んで神社の十八代目をつくりたい。
 ヌードであれ、着衣であれ、宮司のどんな要求にも応える覚悟であった。

                    四

 こんもりと噴水のようにしたたる垂れ桜は今が盛りだった。
 朧月夜に緋色の水煙が煙るようであり、紅玉簾がしたたるようであった。生温かい夜風が吹くと、赤い振り袖が乱れるようにも見えた。楼花爛漫、粋な京女のヌード撮影に相応しい春の夜であった。
 宮司は念願の撮影に昂揚していた。
 Kは撮影機材を、と言ってもカメラとスクリーンとライトだが、離れに運んだ。枝桜が生けてあり、着物や襦袢が掛けられ、宮司の並々ならぬ意欲が感じられた。
 襦袢姿の女が青ざめた面持ちで現れた。濃い化粧に覚悟を決めた美しさが漂っていた。
 宮司が甲高く「喪服で撮る!」と叫んだ。
 女はひなげしの喪服を羽織った。艶やかな化粧に黒の喪服が映えた。凛とした美しさと三十女の妖しさが漂った。今夜は良い絵が撮れるかもしれない。
 興奮した宮司は高い声で矢継ぎ早にポーズを指示した。
 女は妖しい色香を放つ艶女に変貌していった。本性だろうか、演技だろうか、大胆なポーズを次々決めた。襟元からこぼれる乳房、太ももの露わな横座り、臀部(でんぶ)を突きだした這い姿など・・妖しいポーズに宮司は興奮し、淫らな姿態に女も昂ぶっていた。
 ポーズが決まると、宮司は「シャッター!」と叫んだ。Kはライトとカメラ枠を計算し、女に目線を指示しシャッターを切った。Kを見つめる女の目が熱を帯びていた。Kは二人のセックスに立ち会っている気分であった。
 圧巻は書院棚の撮影であった。
 書院棚の向こうで垂れ桜が紅く雪崩れていた。それを背に女は棚に座らされた。エキサイトした宮司は襦袢を剥ぎ、脚を開くよう命じた。女は一瞬躊躇(ちゆうちよ)し、苛立った宮司は手にした桜枝をたたきつけた。パシッと音がし、花びらが女体に散った。女はウッと呻き太ももを広げた。宮司は桜の枝を女の秘所に当てると叫んだ。「撮れ!」
 次の瞬間、宮司は秘所に顔を埋めた。女はア~ッとのけ反り、脚が宮司の背に絡んだ。ヒ~ッと喜悦の声が漏れた。Kは激しく興奮し、夢中でシャッターを押し続けた。宮司の肩越しに歓喜する女が誘っているように見えた。

                    五
 
 そもそもKは人物や女、況や(いわんや)ヌードに余り興味がなかった。
 一度、屋外のヌード撮影を手伝ったことがある。野外でポーズをとる女は気怠そうで、白い裸体はブヨブヨのふやけた肉塊にしか見えなかった。当時、Kは石や金属などの無機的なオブジェにこだわっていたから、女の白くたるんだ裸体はいかにも無防備でみすぼらしく見えた。美しいとも官能的とも思わなかった。
 今回は撮影中の女に惹かれるものがあった。
 凛とした妖しさが漂っていたし、カメラを向けると被写体になりきって、平素の女からは想像できない妖艶なポーズをとった。閨の女はさぞかし淫らであろう。いつか、宮司が「あれも最高でっせ」と親指を突きだしたことがある。訳あり女をあえて娶った宮司の本音が分かった気がした。
 他方、女は撮影中まるでハッサンと交わっているようであった。カメラを構えるKの眼差しが彼そっくりなのだ。女はハッサンの時のように大胆に振る舞ったが、その度にKの目が激しくスパークした。差し込むような熱い眼差しが忘れられない。Kのことを思い出すと、気持ちが昂ぶり身体が火照る。もう一度会ってみたい。女の待ち焦がれる日々が続いた。
 そんなある日、突然Kから電話が入った。
 「写真を現像したいんですが、いつ、ネガを選別して頂けるでしょうか?いつでも伺いますが・・」
 女の声は一気に舞い上がった。
 「そうね~この週末の夜に来てくれはる。」
 週末の夜は宮司が研修旅行で不在であった。咄嗟に二人だけになれる夜を指定したのである。女は週末の到来を一日千秋の思いで待った。気もそぞろで地に足がつかず、その週のことをほとんど覚えていない。
 当日、女はゆっくり湯に浸かり、緋色の襦袢(じゆばん)をまとい念入りに化粧した。湯浴みし紅を引いた女は撮影の夜以上に艶めかしく匂い立った。スライド映写に訪れたKは一瞬、女の色香にたじろいだ。
 宮司が不在と聞いて帰ろうとしたが、「モデルはうちですやろ、うちにも選ぶ権利があります」との誘いに離れに上がった。座敷に会席が用意してあり、女は「一献召し上がれ」と酒食を勧めた。女の持てなしは馴れたもので、Kは心地よく酔ってしまった。
 「そろそろスライドを見まひょうか・・」
 女が立ち上がって部屋を暗くすると妖しげな雰囲気が漂った。
 Kはおもむろにスライドを送った。妖しいポーズが次々映し出され、「あれ、どうしまひょ」と女は恥じらった。うなじを染めて恥じらう女はスライド以上に妖艶である。若いKの身体が火照り、股間が猛る(たける)のに時間を要しなかった。
 圧巻の書院棚の場面になった時、Kは猛る欲望を抑えきれず襲いかかった。女はア~ッとのけ反った。Kは唇を奪い舌を入れ、帯も解かず着物の奧に手を入れた。ヒ~ッと絹を裂くような喜悦が漏れた。
 スライドは自動送りで、宮司に絡みつく女の裸体が流れていた。

                    六

 楼花爛漫、京の至る所で満開桜が緋色の炎を上げていた。
 二人は鴨川の土手桜ホテルで密会し、行く春を惜しむ桜のように激しく燃えた。人目をはばかる密会は慌ただしかった。
 女は買い物を口実に外出していたからことを急いだ。部屋に入ると激しく求め合い、服も脱がずにベットに倒れ込んだ。猛る一物を身体に咥えると、女は激しく腰を振った。ヒーッと喘ぎながら半目をむいて逝き続ける。
 女は世に言う「名器」であった。絶頂を迎えると痙攣するワギナと化した。男の一物に肉襞(にくひだ)がまきつき激しく痙攣する。吸い付く肉壺に堪えきれずKは何度も爆発した。こんなにひたむきで激烈なセックスは初めてであった。
 「貴女って凄いですね」というと、「K君が巧いからよ」と返したが、時に「ハッサンのおかげかな・・」といい、時に「満開桜のせいかしら・・」とうそぶいた。
 「ハッサンのおかげ」とは次のような事情である。
 「ハッサンとパリのモロッコ街に住んだんやけど、あこはフランスやあらへん、ベルベル語って知ってはる?」、「K君も知らんやろ、うちはベルベル語もイスラム教も分からへん、。そやから彼としょっちゅうケンカになった。友達がよう出入りするし、二人っきりになれへんし、うちには最悪やった。」
 「そやけどハッサンは優しかった・・うちらは若かったし、二人になると愛しおうた。愛ていうか、セックスはモヤモヤを吹き飛ばすやろ。うちらは人種も言葉も違うから必死に愛しおうたんよ。神さんを拝むように、真面目に真剣に必死にセックスしたんよ。」
作品名:花狂い京女 作家名:カンノ