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2011年のマーブルマッドネス

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 連コインを続けていた男に、店員が話しかけた。
「お好きなんですか、マーブルマッドネス。先ほどから何度もプレイしていますね」
「ええ、まあ」
 男が答えた。
「遙か昔に、一目惚れしていたんです」
 男は懐かしそうに目を細め、語り始めた。
「高校の頃、地元のゲーセンにこいつがあったんですよ。一プレイして、ゲーム性だけでなく、そのグラフィック、サウンド、すべてに魅了されました。ただ……」
「ただ?」
「当時は高校生でした。お小遣いも少なく、とりあえず出会った日はその一プレイしかできませんでした」
「でも、そんなに気に入ったのなら、また後日プレイしたんじゃないんですか?」
「できなかったんです」
 男は目を伏せた。
「その日を最後に、そのゲーセンは閉店してしまいました」
「なるほど。閉店」
 店員は感慨深げにうなずく。
「九〇年代は徐々にアーケード業界が縮小していっていましたからね」
「今日はこいつ、いや、彼女とでも言ったほうがいいですかね。彼女に再会できて本当に嬉しかった。初恋の人ですからね」
 はは、と照れくさそうに笑った。
 突然、バツン! と音を立てて、マーブルを中心としたゲーム数台の電源が落ちた。ダライアスのプレイヤーが店員を呼んでいる。
「申し訳ありません! ブレーカーを確認してまいりますので、お待ちください。クレジットはサービスいたしますので」
 店員が配電盤を操作すると、すぐにゲームの起動が始まった。



 男は、マーブルマッドネスが再起動したことを確認すると、満足げに店から出て行った。
《あいつ、な、なんて恥ずかしいことを。私が聞いているとも知らずに》
 再起動したマーブルは相変わらず過電流気味だ。お見送りのご挨拶もすっかり忘れてしまっていた。
《まあでも》
 彼女は思う。
《許してあげようじゃない。しばらくの間は退屈しないですみそうだし。でも》
 デモ画面の割れたビー玉を丁寧にお掃除しつつ、彼女は少し考えて、
《最終レース、ULTIMATE RACEまで一緒に遊んでくれるのが条件かな。何年かかっても成し遂げてもらうんだから!》
と、嬉しそうに一人呟くのであった。