普通がいい!
「あんた、何やってんの?」
「はい?」
誰もいないマンションの部屋、のはずが………。
女の子がいた。
「帝釈天から何も聞いてないの?」
ああ、やっぱそうか……。
「帝釈天さんに連絡します」
佐藤は電話のところまで行こうとする。
すると、女の子はなぜか佐藤を止めに入った。
「ま、まって!」
「…なぜです…」
すると、女の子は押し黙る。
「あの人は、あなたのことを探しています」
「い、いや…」
「どうしてもですか?」
「いや…」
佐藤は息を吐く…。
彼は人が嫌がることをするのが嫌いなのだ。
「…分かりました…」
女の子が顔を上げる。
そこに佐藤は「しかし」と付け足した。
「理由、明確で納得のいく理由を聞かせてください」
女の子は何かを考え出した。
そして、意を決した顔をこちらに向け、口を開いた。
「あいつは、嫌いだ…私に恩を売ることしか考えてない…」
「え? それってどうゆう…」
「…理由は言ったぞ…」
理由は意味が分からない…。
でも、本気で嫌に思っているなら、しょうがない。
女の子に背を向け、ベッドの近くに置いてある財布を取りに行きながら、ポツリといった。
「僕にも、立場があります。危なくなったりしたら、帝釈天さんに言います」
渋った末の答え、しかし女の子は満足したようだ。
「ありがとう!」
「ご飯の材料、買いに行くよ」
すると、女の子は嬉しそうについてくる。
「鞍壷
くらつぼ
彩史
さいし
、私の名前」
「ああ、…あ、そうだ…僕は、佐藤次郎です」
「はい! さぁ、買い物に行きましょう」
「ああ…」
「ありがとうっ鞍壷!」
現在、スーパーに買い物に来ているのだが、タイミングよく肉のタイムバーゲンだったのだ。
おひとり様二つという表記が肉の置かれている台にでかでかと出ている。
「ど、どういたしまして…」
すると、鞍壷は服の袖をつまんでくる。
「ん? どうした?」
「ここ、怖い…」
「ああ…」
「次郎は怖くないの…」
…いきなり初対面の人に名前で呼ばれてしまった…。
少し、こそばゆく感じる。
「最初、ここのセールに来たときはさすがの僕も足がすくんだよ…」
うなずきながら聞いてくれる鞍壷に「でも…」と返す。
「その時には居候もいたから、僕が頑張らなきゃ、みんながご飯抜きになちゃうしね…」
それっきり、何も話さないまま、マンションに戻る。
マンションの受付から鍵をもらい、自分の部屋に向かう。
そして、料理をしているときにみんなが帰還。
事情を説明してからご飯を食べ始めた。
なぜかユウは不機嫌だった。
すると、ずっと鞍壷の箸が止まっていることに気が付く。
「その豆の煮付け、まずかったか?」
と、聞くと鞍壷は首を横に振った。
「…………めない………」
「え?」
よく聞き取れない声で鞍壷はつぶやく。
なぜか顔が赤い。
「つかめない、の………」
「なるほど」
豆はつるつるしていて掴み難い。
よくあることだ。
「スプーンは…ユウが折ったっけな…」
「ふん! 箸が使えないなんて、情けない!」
なぜかユウは鞍壷にきつい。
「しょうがない、僕が食べさせるよ」
軽く言ったつもりが、そのあとユウとサムライさん、そして鞍壷の口論の種になるということは、佐藤も知る由もなかった。
そして、就寝。
主を床には寝かせられないとのサムライさんの言い分により、鞍壷は佐藤と同じベッドである。
最後までユウだけは渋っていた。
しかし、変なことは起きない。
なぜなら、佐藤にはある特技があるからだ。
「秘儀、すぐ寝る…」
簡単に言うと、布団に入ればすぐ寝れる、というものだ。
だんだんと意識が重くなってくる。
すると、意識が沈みかけた時、鞍壷は何かを呟
つぶや
いた。
「見つけた、私の幸せ…」
佐藤はそこで眠りについた。