あたらしい商売
「ええ、まだ午前中ですが、既に五十二人のお客様を確保しましたよ。いや、今もひとり捕まえたので五十三人ですな。しかも今日は皆、高級品ばかりなので、総額は二百万マネーを超えていますよ」
男はニヤリと笑みを浮かべて又モニターをチェックし始める。
「いやあ、君が来てからというもの、我がデパートの売り上げは倍増。いや三倍だ。本当にいくら感謝してもし足りないくらいだよ。わっはっは――」
店長の笑いは作り物では無く、心の底から湧き出てくる様だった。
その頃、となりの取調室では……。
「さあ奥様、リフトチケットを確認させて頂けますか? もちろんお持ちですよね?」
アロマーニャ氏はあくまで丁寧且つソフトな口調で婦人に話し掛ける。
「あ、ハイ。これで良いんですのよね?」
婦人は財布の中から黒地にゴールドの豪華な装飾を施したカードを差し出した。
アロマーニャ氏は恭しく受けとって備え付けの機械に差し込むとにこやかに振り返る。
「いやあ奥様、本当に危ないところでした。もう少しで六万マネーもするロイボトンの高級バッグを盗られるところでした」
「あらそうかしら? 残念だわ。じゃあ、コレでね」
婦人はそう言うと、あまり悔しそうでも無くクレジットカードを差し出した。
「はいありがとうございます。リフトチケットのお客様は五%オフになっておりますので……。ところで如何です? 当店の新しいサービスは」
「ええ何だかとってもワクワクするわ。一回千マネーでチケットを購入すれば、お店で万引きし放題だなんて。成功すればタダだし、こうして捕まっても貴方みたいなステキな方とお話ししながら五%オフでお買い物が出来るんですもの。もう他ではお買い物できないわ」