あたらしい商売
男はモニターに映った男の顔を見てただのカゼだと判断したのだ。
その判断に九十九%の自信は有ったが、念の為にマークを命じたのである。
と、一番角のモニターの画像が点滅し、映っている中年の婦人をロックオンした。
モニターはただのTVでは無いのだ。最新テクノロジーが様々な凡例の中から、怪しいと思われる行動をピックアップしモニターに映し出す様になっている。
だが、その婦人には先程から二名の警備員をつけてある。
最新の防犯システムは九十%以上の犯罪を検出する能力があるが、男の目は未だ行われていない犯罪さえも検知する能力をもっているのだ。
売り場から離れて行くその婦人をモニターが追いかける。
人気の無い方に消えて行こうとした時、高級な外国製ブランド、アロマーニャのスーツに身を包んだ美青年が、すっと近づいて行き何か話し始めた。
アロマーニャ氏は勿論デパートの警備員である。
婦人は夢見る様な視線をアロマーニャ氏に向けつつ短い会話を交わすと、二人は腕を組んでモニターの外に消えて行った。
行く先は勿論、モニター室の隣に幾つか有る豪華な応接セット付きの取調べ室だ。
しかし男はモニターにアロマーニャ氏が現れた時点から全くそちらを見ていない。自分の自信もさる事ながら、警備員への信頼も絶大であるのだ。
これこそ真のスペシャリスト達であった。
コンコン。
モニター室のドアがノックされデパートの店長が部屋に入って来た。
「ゴホン。どうかね、今日の調子は?」
どうやら店長もこの男にだけは多少気がねをするらしい。