あたらしい商売
狭い第二警備室の二十個以上あるモニターの前に座り、男は真剣な表情で映像を見ていた。
この通称モニター室にいる彼はただの警備員ではない。ある会社から派遣された万引き摘発専門のスペシャリストなのだ。
万引き摘発が専門なので夜勤などは決してしないし、自ら犯人を捕まえる事もしない。
ただモニターで監視を行いながら、怪しい人物や行動を発見すると、各フロアの警備員に的確な指示を出すのである。
そして……。
男の目があるモニターに映った人影を捉えた。
『むむ? こいつ挙動が不審だ……』
モニターに映った若い男の客は、ヤケにダブダブなロングコートを、キッチリ首元までボタンを掛けて着ていた。
男は食い入るようにモニターを見つめる。
と、突然興味を失ったかのように首をぐるりと回して無線装置の受話器を取った。
「もしもし十一号か?」
男は警備員を番号で呼ぶ。名前など始めから憶える気など無い。各人に持たせた無線機の番号を使えば充分だと思っているのだ。
もっとも警備員の方も誰が事にあたってもキッチリと仕事をこなせる、訓練された警備員であればこそである。
「エレベータに向かっているロングコートの男をマークしろ。たぶんカゼをひいているだけのはずだが念の為だ。そうだ、もし倒れそうにでもなったら助けてやれ。大切なお客様だからな」