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University to GUARD 序章

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 それは、可視化されたエネルギー衝突の図だった。無数のレーザーが、一閃されて放たれた居合の波動を阻もうとしているようだった。
「エネルギーが足りないよ」
 新藤が自身の両手をかざし、ミラーを前面に設置していく。
「追加をプレゼントしよう」
 言い終わると同時に新藤の両手からもレーザーが照射され、ミラーをくぐりぬけて五十嵐の放った波動に激突する。
「だろうな、そのための二振りだ」
 左足をすり出し、もう一振りの刀に手を添え五十嵐も再度“居合”で刀を抜き放った。初めの波動に垂直になるような形で、追撃の波動が加わった瞬間に二人の間、衝撃点が爆発した。砂煙が凄まじい勢いで舞い上がり、新藤の翼で払われた時にはすでに、二人は大地で対峙していた。五十嵐がすっと両の手に刀を握り締めて構え、呼応するように新藤も翼をパージしそれぞれ三枚ずつを両手の甲に装着し構えた。場が静寂に包まれ、凍てつく。いまかと互いが踏み出しかけた時だった。二人の間に黒い影が現れ、瞬く間に大きくなっていく。二人が、場内が上を見上げた。
「そこまでよ犬ども、御苦労さま」
「あのアマっ……」
「来たか」
 五十嵐、新藤のちょうど中央上空から一つ、人影が両腕を組んで仁王立ちのまま落下してきていた。
「installation」
 降ってきた女が空中で落下しながらアーマノイドを装着し、着地した。ドスン、という音と共に女の、正確にはバイザーを装備した顔がすっと上がる。
「なかなか面白い見物だったわ、犬共。後は私に倒されなさい。それでこのエキシビジョンは終わりよ」
 女の声は、ヘルメット内のマイクが前もって場内のスピーカーに無線で接続された状態だったのか、場内全体に響き渡った。
 女の右には刀を両腰に携えた五十嵐、左上空には周囲に何十個ものセントリーを滞空させている新藤。観客席がざわつく中、アリーナ場内の雰囲気はなぜか五十嵐と新藤の一騎打ちの時よりも殺気立っていた。
「犬だと、てめぇ……」
「少々聞き捨てなりませんね」
 さっきまで観客には何も聞こえていなかったはずの二人の声も場内に響き渡った。
「犬共、粋がるのはいいけど。声、場内スピーカーに乗ってるわよ?」
「構うかよ」
「一向に構いません」
「あらそう。後で恥かくわよ?もっとも、たかが犬にプライドがあるなら、だけど」
 そっと女は組んだ腕を解いて行く。同時に新藤のセントリーが起動し、五十嵐の右手は刀の柄に添えられた。
「それじゃ」
 女が右手を五十嵐にかざすと同時に新藤へ向けて飛翔した。わずかに舞い上がっていた砂が一瞬で掻き消えたからこそ、理解できた。五十嵐に向かって女の右手から突風のようなものが放たれ、その風に煽られるように五十嵐が見事に後方へ吹き飛んだ。
「ちょっとあんたは後回しね。先に君から」
 新藤が五十嵐を目で追った次にはすでに眼前に女が迫っていた。速すぎた。配置したセントリーのロックオンが間に合わない。
「マニュアルロック」
 新藤のバイザーに映っていた複数の照準が一つに集約される。全速力で新藤は後方へと飛行し、照準を女に合わせた刹那一斉に女へ向けて照射した。セントリーの前方に設置された数多のミラーから、一斉に細く絞られたレーザーが女へ照射される。
「なぜだ」
 全てのレーザーが、まるで女に吸われていくように消滅した。
「光学だけじゃね。振動・波動学って知ってるかしら、犬」
 新藤の頭の上へアーマノイド越しに女が手を翳し、そのままそっと押し出すように触れた。
「あら、随分と安定してるのね」
 女が言い終わった瞬間、新藤のバイザーに表示されたディスプレイの至るところからアラート表示が出現し、その数は増えていく。
「何をしたっ」
 微かに、女の手のひらが新藤の“眼”となっているカメラ越しに揺らぐのが見えた。瞬く間にディスプレイ右端に表示されている各部の“耐久容量”が、減少していく。正面から攻撃をどれだけ浴びても、この減少速度にはならないと思えるほどのスピードで。
「安定した特性を持つ物ほど、共振を起こしやすい。言っても分からないかもしれないけど」
 全ての耐久がゼロになり、合成音声が新藤にアーマノイドの終わりを告げる。
「uninstallation<強制解除>」
 新藤を覆っていた全ての部品が、装着の逆再生のように両腕のデバイスへ集約されていく中、女はその場で滞空したまま落下していく新藤を見下すかのように見ていた。アリーナ上空から制服姿へと戻った新藤がただひたすらに落下していく。
「全治一カ月くらいで済むんじゃない?この高さなら」
 観ていた新入生全員が新藤の落下を目で追っていく。下には地面のみ。あと三秒もしたら地面に叩きつけられる、となる高さまで来るとほとんどの新入生は目をそらした。わずかに最後まで見ようと追い続けた新入生のざわめきによって、再び皆が新藤が落ちたであろう場所へと恐る恐る目を向けた。
「とんだお転婆娘だな」
 新藤の襟元をつかみ、引きずるように持ち上げている、刀を腰にさげたアーマノイド、五十嵐がいた。
 新藤をそのまま地面に投げ捨てると、すっと刀を抜き払った。女が落下するように高度を落とし、五十嵐の前へと着地する。その間は二〇メートル程。
「くだらねぇ事してくれたな」
「吠える犬を躾けるのは飼い主の務めだから」
「つくづく気に入らねぇ」
 五十嵐は眼前に一振りの刀を突き立てた。五十嵐の全身、至る所から蒸気が噴き出し瞬く間に五十嵐の周囲に蜃気楼が立ち始める。足元の地面はすでに熱され尽くし、焼け石のように赤く発光し続けている。
「まさか、またオーバードのつもり?自殺行為ね」
「知らねえな」
 右手に握られ地面に突き立てられた刀の刃が鈍く、赤く発光し始めた。
「全方位への熱攻撃……芸がないわね、犬」
 見ている新入生には、観客席がバリケードで覆われてるせいで何が起こっているのか分かりにくい。女がじっと立ち尽くしていることだけが異常に映った。
「その刀身を介したもの全てが冷却機として働く程の発熱だなんて、オーバードより負担が大きそうね。そのまま自爆すれば?」
「なに、一瞬だ」
 五十嵐の体もが刀身と同じく、滲むように赤く発光し始めていた。全身のあらゆるラジエーターからの排気も、もはや不規則になり冷却が追い付いていないことが見て取れる。
「ほんっとに厄介なことができるわね、犬。こっちも何かしないとまずいかしら」
 女のデバイスから四つの水筒を思わせるような円柱形状をした何かが現れた。出現すると同時に、その水筒に備わったLEDが発光し起動していることを知らせている。紋様のようなLEDを光らせたデバイスが女の周囲に次々と、オートメーションに設置されていく。四つ全てがあっという間に設置され、女の頬あたりから細いアンテナが伸びた。
「神の眼を見せてあげる」
「何言ってんだかわかんねえな……」
 五十嵐の片目に装着されたディスプレイが、可能と告げた。五十嵐のアーマノイドが中腰になり、刀身が地面にずるずると吸い込まれた。
「っ!」
 刀身の発光が強まった刹那だった。
「くっそ……」
 五十嵐が女の背後で膝を折り両手をついていた。
「<unistallation>」
作品名:University to GUARD 序章 作家名:細心 優一