一緒にゲーム作りませんか?
オレと香奈が知り合ったのは小学校2年生の頃、
あいつは両親が離婚し母親の方に引き取られてこの家にやって来た。当時の香奈は荒れていたと言うか無愛想であんまり笑った事が無かった。髪も今より短くて背も高く、服も男みたいなのを着てたから本当に女かと疑うほどだった。
かたやオレは凄い内気で話すのが苦手であまり人と会話した事が無かった。香奈が転校して席が偶然オレの隣になったのだが、当時は香奈が怖くて特別な用事でもない限り自分から話す事は無かった。
多分クラス中がそう思ってたと思う、その為に香奈は結構浮いた存在だった。
そんなオレ達がなぜ今みたいな関係になったかと思うだろう、実は香奈が転校して来てから数日後に起こったある事件がきっかけだった。
公園で上級生3人組にゲーム機を横取りされて泣いていた所に日直で帰りが遅くなった香奈が通りかかり、そいつらをぶちのめしてゲーム機を取り返してくれたのだった。
「その時の香奈の奴何て言ったと思う?」
その時の言葉は『取り返してやっただろ、男のクセにピーピー泣いてんじゃねぇっ!』だった。正直上級生より怖かった。
そしていつの間にかその上級生達や同学年の男子達を軍門に置いてオレは隣りに立たされていた気がする。
それ以来家も近所と言う事で一緒に登校したり話したり、休日はオレの家でゲームをするようになった。
ちなみにオレをイジメてた上級生達も家に来て一緒に遊んでいた。
「中学に上がって髪伸ばしたら見た目だけは女らしくなったよ…… 人をグーで殴るのは相変わらずだけど」
オレが苦笑すると来栖さんも笑った。
「そうなんだ。吉崎君ってゲームを通して友達を作ったのね」
「……まぁ、確かに」
結果的にはそうなる、
今まで言われた事がないから気付かなかった。香奈を始めオレをイジメてた上級生、中学に上がったら卓と仲良くなり最近じゃつかさちゃんと出会い、来栖さんともこうして話す事ができた。全てゲームが絡んでる、
もしゲームが無かったらオレはずっと独りきりだったかもしれないな、
「この前話してみてよく分かった。やっぱり吉崎君はゲームを愛してる…… ううん、ここまで来るとゲームが吉崎君を愛してるって言うのかな?」
「ゲームが?」
オレは想像してみる、
店で買ったゲームのパッケージを開けると中のソフトが飛び出して手と足が生えて『好きです付き合ってください』と言って来る、とても嬉しいとは言えないな、
せめてゲーム世界から美少女が出て来て同居する言う薔薇色の生活を送りたいもんだが生憎オレはギャルゲーはあんまり詳しくない、どちらかと言うと卓が喜びそうな展開だ。
「吉崎君はゲームを選んで買ってるんじゃ無くてゲームが吉崎君を選んでるのよ」
それってよくゲームに出て来る、真の武具は持ち主を選ぶって奴か?
でも言われてみればオレが選ぶゲームはほとんどハズレが(全くって訳じゃないが)無い、しかも誰かがプレイするとそいつがどっぷり嵌まっちまうほどだ。
「それでどこまで行ったの?」
「えっ?」
「ゲームよ、どこまで出来たの?」
オレは思い出した。
そう言えば彼女にゲームを作ると言う事を言ってしまったんだった。
「ああ、友達と一緒に作ってるんだ。さすがにオレ1人じゃ無理だからさ……」
「そうなの」
「1年の女子なんだけど、パソコンに詳しくてさ、オレはプログラムとか組めないから…… あ、ゴメン、オレちょっとトイレ……」
膝に力を入れて立ち上がろうとする、しかし数秒後、人間は慣れない事をするモンじゃないと後悔した。
あれは2年前に中学の修学旅行で京都に行った時に団体行動で男子はある寺にやって来た。何て寺かは忘れちまったがそこで男子生徒だけ座禅を組まされた事があった。それが解かれた時に皆足が痺れて動けなくなった。
ここまで言えば分かるだろう。そう、オレは来栖さんの前で行儀良くしようと正座をしていたのでオレの足の感覚がなくなってしまっていた。
「うわあっ!」
バランスを崩して前に倒れる、もちろん目の前には来栖さんがいて彼女の上に覆い被さってしまった。
「きゃあっ?」
畳の上にオレ達は倒れた。
しかし良い事ってのはあんまり続かないくせに悪い事ってのはしつこいほど続けて起こる物だった。
「お待たせ、こんなのしか無いけど……」
ふすまが開くと香奈が片手は赤い盆の上に急須と人数分の湯飲みと茶菓子が乗ってやって来た。
しかし今の状態を見ると両肩が震えて盆の上の物がカタカタと言う音が鳴り、次第に大きくなって行った。
それどころかこいつの背後から黒いオーラが出ている(様に見えた)、
「アンタ…… 一体何やってんのよ?」
オレは来栖さんの顔を見ると数秒停止、
ようやく今の状況を理解すると慌てて来栖さんから飛び退いた。
「ごめん、委員長。足が痺れて……」
「あ、いいのいいの、私の方こそ……」
来栖さんは苦笑しながら手を振ってくれる、
やっぱり良い人だなぁ、何て場合じゃなかった。
「い〜さ〜み〜……」
オレは…… と言うか人間誰しも頭の後ろに目がついてる訳じゃないから首や体制を変えない限り後ろを見る事はできないが付き合いの長いオレはこいつが何をしているのか手に取るように分かる、
香奈は盆をテーブルの上に叩きつけるように置くと荷物が無くなった両手を握り締め、ボキボキと関節を鳴らしながら信じられない事に男のオレの胸倉を左手でつかんで持ち上げると右手を後ろに引いた。
「星になれ馬鹿野郎――ッ!」
勢いよく振り上げたアッパーカットが見事オレの顎にヒット、
一昔前に流行った挌ゲーの技がリアルにオレに炸裂した。個人的にこいつにお似合いなのは逆さまになって両足広げる回転キックだと思うんだが…… とにかくオレはKО負けで畳に叩きつけられた。
作品名:一緒にゲーム作りませんか? 作家名:kazuyuki