ACT ARME1
そう言うと、ルインは真上にジャンプし、標準をそらしたところで後ろに回り、バッサバッサと薙ぎ払う。
「ふう、これで大体片付いたかな。」
辺りを見回し、一息つく。と、そこにグロウとツェリライが合流した。
「おお、二人共無事だったんだね!」
「反対に聞きますが、あなたは僕たちのことを少しでも心配していたんですか?」
「ううん。全く。」
あっけらかんと言い放つルイン。
「まったくもって非情ですね。あなたは。」
「非情だなんてとんでもない。これは信頼って言うんだよ。」
「戦いの最中にダベリングかね?」
唐突に後ろからマイク越しの声が聞こえる。
「少しは緊張感を持ちたまえ。君たちは今戦場にいるのだよ。」
「戦場?ここが?それは驚きだね。てっきり遊園地かと思ってたよ。」
そして振り返り、相手を仰ぎ見た。
「ふふふ、本来ならば児戯に等しいと一笑に付すところだが、貴様らはそれは実現させるだけの実力を持っているところが恐ろしいな。だが、これを見ても同じセリフがはけるかね?」
目の前にいるのは、全長十メートルにも上ろうかという巨大なメカ、いや人型兵器だった。
「うわーい。テラガ○※ム。」
「あほ言え。ガ□=ムは頭じゃなくて胴体に入るだろうが。ありゃニセもんだ。」
「お二人とも。軽々とアウトライン超えた会話するのはやめてください。」
「驚いてくれたかね。ちなみに私はこれをアンビシャン(大志)となずけている。」
「大志?どちらかといわなくても野望じゃないの?」
「好きに呼びたまえ。どちらにせよもうその名を呼ぶことはできんさ。それどころか、二度とその減らず口がたたけなくなるだろう。」
「――――――グロウ。ツェル。」
「了解しました。」
「おう。」
「さあ、貴様らをスクラップにして――――」
とゴーダツが叫び終わる前にツェリライが何かを投げつけてきた。それはコックピットに衝突すると同時に激しい光を放つ。
その光は機内にいるゴーダツとて、無事ではいられない。
「ぐわあ!」
思わず目を覆うゴーダツ。状態異常が回復する間もなく、真横から声が聞こえてくる。
「生憎、相手のセリフが終わるまで待っていられるほど慈善的かつ気長じゃなくてね。」
「貴様、アンビシャンの腕を伝って・・・!」
「戦いは勝つこと優先だということだよ。」
「こ・の、外道がぁ!」
「お前に言われたくないわ!」
激しく反論したのち、高く跳びあがったルインは、落下の勢いそのまま兵器を斬りつける。
「刈閃(げせん)!!」
しかし攻撃は、機体に傷をつけただけにとどまった。
「!」
「どうだね。ハマテチラニックスの硬度は素晴らしいだろう?」
偉そうに自慢してくるゴーダツ。と、背中のハッチが開き、中からミサイルが発射された。
「うわっとと!」
間一髪で飛びのき、難を逃れる。ルインに向かってホーミングしてきたミサイルはそのまま機体に命中する。
だが激しい爆発が起こったにもかかわらず、損傷は見受けられなかった。
「ほぼ無傷か。あのミサイルの威力が水鉄砲並みだと考えるのは楽観的すぎるね。」
「やっと驚いてくれたか。だがもっと驚いてほしいものだ。なにせ、まだこのアンビシャンはその能力の1%も発揮していないのだからね。」
「へぇ、そいつは驚きだな。」
と、今度は足元でグロウがハンマーを構えた。
「オラァア!!」
グロウの気合の一撃。それでもダメージを受けている様子はない。そのまま巨大な足に蹴り飛ばされる。
「うお!?」
一気に攻守逆転した様子を見てハイになるゴーダツ。
「ハハハ!どうしたんだ!?ここは楽しい遊園地じゃなかったのかね?」
「ああそうだよ。だからゲストを攻撃する危険な遊園地を廃園にしようとしてるんじゃないか。」
「そんな無理をしないほうがいい。私とて若い命を散らせたくはないのだよ。」
「何故に僕らが死ぬこと前提?」
「貴様には記憶力がないのか?言っただろう。このアンビシャンはまだその能力の1%も発揮させていないと。」
「うん聞いた。で?お前はここで100%の力を発揮させる気?」
「何を馬鹿な・・・・・・・」
そこでゴーダツもルインが何を言いたいのかに気付いた。
「人の記憶力を心配する前に、自分のほうを心配するべきだったね。ここ、お前の会社の地下だよね?それ、どう見ても屋外で暴れさせる奴だよね?そんなものをここで使ったら、ビルが沈むよ?」
「・・・・・・・・・」
「あいつ、気づいてなかったのかよ。オレでもわかってたぞ?」
「やれやれ、社長がこんな『ど』のつく馬鹿だと、お先真っ暗だね。」
「そう言ってあげないでください。この人はただ単純に戦闘戦場というものに関する知識が皆無なだけです。まあ最も、そんなタイプの人間がこんな場所にいるのは間違いなく場違いなんですけどね。それで?どうするつもりなんですか?願わくばおとなしく降参してくれるとありがたいのですが?」
その問いかけに、ゴーダツは若干焦りながらも高圧的に返す。
「お前たちは何を勘違いしている?」
「は?」
「確かに、私がここでアンビシャンを全開で動かせばこの会社は間違いなく沈むだろう。そうなっては研究開発どころの騒ぎではない由々しき問題が発生する。ならば全開で暴れさせなければいいだけの話。簡単なことだ。」
その発言に一同沈黙。そしてルインが哀れみを帯びた口調で言葉を返す。
「えっと、さっきお前が言ったセリフそのまま返すね。何を盛大にド勘違いしてんの?」
「何?」
「なんかさっきからこっちが全力で戦っているみたいな感じで話してるけど、僕は一回もそんなこと言った記憶無いんだよね。」
「なん・・・だと・・・?」
「ぶっちゃけ、こちらの力も1%しか使ってませんって感じ?」
「ルインさん。虚勢を張らないでください。幾らなんでも1%ではないでしょう。」
「いちいち突っ込まないでよそういうとこ。もしかしてと思ったけど、やっぱり気づいてなかったようだね。コックピットにいたら無理もないけど。」
「何をだ?」
「そのロボットの右肩、さっき僕が技うった場所だけど、傷が付いてるのわかる?」
「ああ、わかるさ。このちんけな傷がどうかしたのかね?」
「うん、じゃあそこからは見えないと思うけど、さっき僕を打ち落とそうと打ったミサイルがあたった場所は、少し焦げただけで実質的なダメージはゼロだよね。
あと、さっきグロウがハンマーで殴った足もそっからじゃわかんないと思うけど、結構思いきりへこんでるんだよね。」
「それがどうした?」
「単純に考えてミサイルより僕らのほうがダメージがでかいってこと。」
「だから、それがどうかしたかね?いくらお前たちのほうがミサイルよりダメージが大きいといえども、この程度の傷で機能不全に陥ると思うかね?」
「いやだから、僕らは思いっきり手加減してたんだってば。」
「なら全力を出せばこのアンビシャンを破壊することも造作もないと?とんだ詭弁だな。いくらここの兵士を皆殺しにできるお前たちでも、それは不可能だ。」
「思い込みほど恐ろしい負けフラグはない。これ、覚えておくといいよ。って、ちょっと待った。今、皆殺しって言わなかった?」
「わたしは事実を述べたまでだが?」