ACT ARME1
その5.57秒後には全員が吹き飛ばされ倒されていた。
あっという間にスナッチ一人となり、茫然と立ちすくむ。
「ほーら、言った通りになった。で?もっかい聞くけど、どする?」
「ぐっ・・・!」
そして扉の奥に姿を消した。ルインたちもすぐにあとを追ったが、すでにその姿はない。
「あの野郎。どこ行きやがった?」
「多分ツェルが見つけた地下施設だろうね。」
「つってもこの廊下は結構な長さがあるぞ。今の時間だけで角まで行けんのかよ?」
「それは恐らく・・・・あ、ありました。」
と、先ほどから壁に張り付いて移動していたツェリライが声を上げる。そこはぱっと見は何の変哲もない壁である。
「あ?何があったんだよ?」
「こういうことですよ。」
そう言い、ツェリライが壁を叩くと壁が反転し、奥に通路が現れる。
「なるほど、隠し通路ね。」
「ええ、恐らくこういう事態が生じた際に最短で地下に行けるように直結した通路を用意していたのでしょう。」
「それはつまり、敵さんはそのいかがわしく素敵なガラクタによほど自信があるということだね。」
「そういうことになりますね。では行きますか。」
「おい、なんでこの通路がガラクタの自信につながるんだよ?」
「あー、はいはい。移動しながら説明するから、とにかく行くよ。」
そして三人は通路の中に入って行った。
「うわ!」
「うお!!」
「ひでぶっ!!!」
隠し通路を猛烈な勢いで滑り下りて行った三人は勢い良く外に投げ出される。
「痛たた・・・まさか中が滑り台だったとはね。てっきり梯子だと思ってた。」
「僕も同じです。誤算でした。」
二人が地面に衝突した痛みで座り込んでいる中、グロウだけはなんてことないように立ち上がる。
「おいコラ、いつまでも座り込んでんな。」
「わかったよ。スパルタだね、全く。それで、なんで隠し通路がガラクタの自信の証明になるかの説明だったよね。ツェル、よろしく。」
「僕ですか?ルインさんがすればいいのでは・・・」
「やだなあ、せっかくだから説明役というおいしい役どころを譲ってあげてるんじゃないか。」
その言葉にツェリライは不服そうながらも説明を始める。
「いいですか。隠し通路というのは、その名のとおりその存在を隠していなければなりません。そうしなければ隠す意味がなくなりますから。ここまでは大丈夫ですよね。」
「いいから続けろ。」
「随分と偉そうですね全く。
まあ、そういうことですから本来隠し通路は部屋の片隅など、目立たない場所に仕掛けられていることが多いんです。なぜなら、そうしなければ後から追ってきた敵にすぐその存在を察知されてしまいますから。ましてやあんな何もない廊下のど真ん中に仕掛けるなんてアホです。愚の骨頂です。
ですが、連中もそんな馬鹿ではないでしょうから、あれは敵をおびき寄せるための罠。
そんな罠を仕掛けた理由を考えれば、先ほどのグロウさんの疑問の回答になるでしょう。」
「つまりあいつらは俺たちをここにおびき寄せて一気に潰してやろうと企てているってことか。」
「そういうことだよ。愚かな火の虫諸君。」
高笑いとともに偉そうな声が響く。
「今まであの罠にかかって無惨に散っていった虫たちは多数いたが、君たちのようなタイプは初めてだ。まさか罠と知りつつかかってくるとはな。なかなか面白い体を張ったギャグじゃないか。」
「偉そうに能書きたれてないでとっとと名乗れ。あと首上げんのだりぃから降りてこい。」
グロウがいかにもかったるそうに言い放つ。その言葉を聞いて、聞きなれた声が飛んできた。
「貴様!なんという無礼を!この方はこのエレクトンゴーダツカンパニーの代表取締役であるぞ!」
「まあまあ、落ち着きたまえスナッチ君。彼らの言うことも最もだ。」
「いつまで古くせぇお代官劇繰り広げてんだよ?とっとと名乗れってつってんだろ。」
グロウはそろそろイライラしてきている。あとルインも。
「同感だね。で?さっきの会話から察するに、あんたがここの社長さん?」
「いかにも。私がこのエレクト・・・」
「肩書き省略!あとやっぱ名前もいいわ。なんとなくわかったから。」
「ほう?言ってみたまえ。」
「ゴーダツ。」
そっけなく答えたルインに、相手からの返事はない。
「げ!まさか図星?自己陶酔の塊みたいなやつだから、もしかすると自分の名前会社に使ってんじゃないかなと思ったんだけど。うわ〜、流石にイタイわ。」
突如始まるルインの『口』撃に、相手は口を挟むことをしばし忘れる。
しかし、ルインのターンはまだ終了していない。
「そもそもさあ、自分のためなら他人の犠牲は当然って思考回路してる時点でイタイっていうか寒いよね。あんたらどこのガキ大将だよ。しかもその中身がもの凄い厨二病臭いし、何?大量のメカを開発して国を乗っ取ろうなんて考えているわけじゃないよね?そういえばまだあんたらの目的聞いてなかったけど、なんでこんなことしちゃったのかな?おいちゃんに教えてチョーダイ。ねっ?」
途中からあからさまに馬鹿にされ、怒りをあらわにしていたが、そこは責任者としてのプライドがあるのか、答えを返してきた。
「無知とは罪である。」
「は?」
「お前たちのことを言っているのだよ。お前が日々惰眠を貪っているあの古びた建築物の下に、どれだけの価値が眠っていると思う?」
「さあ?知らない。」
「教えてやろう。あの辺り一帯の地下奥深くには、大量のイーセントリニウムが眠っているのだ。」
また意味不明な単語の登場に、ルインはツェリライに視線を送る。
「はいはい、わかりましたよ。イーセントリニウムとは、この星に眠るレアメタルの一つですよ。この鉱石をわずか数g足すだけで、ありとあらゆる電子機器やメカのスペックが大幅に向上します。」
「例えば?」
「そうですね。テレビなら画質の向上はもちろん、今よりさらなる軽量化・縮小化が図れますし、ここにある兵器類なら機動性やパワーが比べ物にならなくなります。
これはイーセントリニウムに含まれるノースタンチーと呼ばれる物質が電子回路に作用し、処理能力が格段に向上することにより、それまでに得られなかったスペックを獲得することができるようになるんです。
さらにイーセントリニウムそのものに未だ解明されていないエネルギーが秘められており、その力も作用することにより今までの科学では考えられないような技術を開発することができるようになったんです。
しかしイーセントリニウムは地下深くに眠っており、また発掘できる場所も限られています。故に希少価値が高いんです。」
「なるほど。一言で言えばつまりそのイーセなんとかは超超レアアイテムってわけね。」
「まあそういうことです。よく僕の今の説明をそこまで要約できますね。すごいですよ。」
「すごいと言ってる割には全然感心してないよね?」
「さあ?ご自分で察してください。」
「お前たちはいつまで話しているつもりだ?」
上から半ば呆れ、半ば苛立ちを含んだ声が聞こえてくる。
「ああ、ごめんねボッチにして。で、それを掘り起こしたいから邪魔なものは排除すると。」
「否定はせんさ。」
精一杯ふんぞり返って答えたが、その返事に再びルインの口が火を吹く。