ACT ARME1
「少し違いますね。若干ながらあなた方が黒幕であるという可能性があると考えているというのが正しいです。」
「質問に質問を返すようで失礼だが、そう考えられた根拠をうかがっても?」
「通報された住民の話によると事件発生の数日前、貴社が新しい工場の建設計画を立て、件のアパートを引き払ってほしいと通知を送ったそうですね。それに対する被害者の対応はNOだったそうで。」
「ええ、確かに我々はそのような通知を送り、ありがたいお返事をいただくことはできませんでした。ですがそれは我々の勝手ですから。また新たに工場建設の計画を企画しようと考えているところです。まさか、あなたはたったそれだけの理由で我々を疑っているのですか?」
「いえ、いくらなんでもたったそれだけの証拠とも言えないようなもので犯人だと決めつけるほど無粋ではありません。
ですが、私たちの調査では事件前のそれらしい接触といえばこの一件しかなかった。証拠ともいえない細い藁にすがるしかない。それだけ私たちは情報に飢えているのです。
不躾な質問をしたのは、私は回りくどい質問を繰り返すのは不得手でして、最初に私の意図を汲んでいただいたほうが後の質問がスムーズに流れるという私の自論によるものです。
ですので、不愉快な思いをさせてしまうようで申しわけありませんが、質問にお答えいただけたら幸いです。」
笑顔でそう返すツェルライに、若干訝しがりながらも応じる。
「そういうことでしたか。こちらこそ失礼な対応をしてすみません。さらに申し訳ないのですが、その御質問にもNOと言わざるといえませんね。」
「いえ、私が今までにそういった質問をした方の中には激昂して追い出そうとした方もいましたから。お気になさらず。そうですか、わかりました。後は形式的な質問をいくつかさせていただきます。個人的な嗜好の質問もありますが、答えてくださるとありがたいです。」
「わかりました。」
「それでは―――――」
そして数分がたち、グロウとルインの二人が大分退屈してきたとき、ドアと床の隙間から何か紙のような薄っぺらいモノが入ってきた。
しかしそれは、明らかに風で動いているとは思えない(そもそも部屋の窓が開いていない)動きでするするとツェリライの元へと漂ってきた。あっけにとられている相手をしり目にツェリライはその紙を手に取り、身につけているヘッドホンに張り付ける。
しばらくその状態で固まっていたが、やがてその紙をはがして懐へ戻した後、質問を再開した。
「すみません。お待たせいたしました。それでは最後の質問です。」
わざとらしく間をおいた後、最後の質問をした。
「このビルの地下に、巨大な研究施設、さらには危険工作物製造法に違反するほどの大型で強力な機械や兵器の類を所有していませんか?」
その質問に、相手は再び固まった。
「なんだ?その危険うんちゃら法ってのは?」
「確か、許可なく規定外のパワーや大きさがある機械とか、大量に人を殺傷できる兵器類を製造・保有したらダメっていう法律じゃなかったっけ?」
「その通りです。それで、まだ回答をいただいていませんが、YESかNOでお答えいただきたい。」
相手は固まった状態のまましばらくそのままでいたが、やがて誰が見ても作り笑いだろと突っ込まれそうなぎこちない笑みを浮かべ、答えた。
「い、いやあ突然何を言い出すかと思えば。そんなもの所有しておりませんよ。」
「とぼけてもアシは付いているんです。先ほど僕の手元に戻ってきた紙のようなもの。あれは僕の制作物で、指定したエリア・建造物をくまなく探索し情報を収集するものでして、『ディテクトリー』と名付けています。」
「ああ、なるほど。最初にやたらとカウンターに張り付いたのは受付のお姉さんをナンパするためじゃなかったわけだ。」
「ええ。ディテクトリーを張り付けるところを誤魔化すためです。というか、僕は生まれてこのかた一度もナンパなんてしたことありませんが?」
「んで?その調べた結果は?」
「文句なしのギルティーです。地下に巨大な研究施設を発見しました。中には随分といかがわしく素敵なものがずらりと並んでいましたね。というわけです。おとなしく認めてくれませんか?」
いきなりの急展開に、スナッチは動揺を隠せず言い返す。
「き、貴様たち、ロクな証拠もないのにそんな家捜しみたいな真似が許されると思っているのか?」
「ええ、治安部隊としては思い切り違反ですね。でも関係ないんですよ。なぜなら僕たちは治安部隊隊員ではありませんから。」
「何?」
「最初に掲示したあれは偽造です。僕たちはもとより治安部隊と何の所縁もありません。」
「それって思い切り身分詐称してますってカミングアウトしてるのと同じだけどね。」
「構いませんよ。こちらの方がよほど大きな違反を犯しているわけですし、そもそもそんな小さなことを気にするような二人ではないでしょう?」
「まーね。それで?大家さんは?」
「いましたよ。地下牢に収容されています。他にも人の姿がありましたね。もしかしなくても本物の治安部隊が動いているでしょうね。」
「てことはだ。とっとと済ませてずらかった方がいいということか?」
「そうなりますね。今回もまた色々とやってますから。」
「でも今回のはツェルが単独で違反してんだからノータッチの僕らは安全圏だね。」
「何のんきなこと言っているんですか。違反だと知っていてそれに乗ったということは、思い切り共犯じゃないですか。」
「あ。」
「それに、今から思い切り暴れるんでしょう?」
「あ〜〜〜〜。」
「だからとっとと済ませようぜ。」
「ま、そだね。で?そこの幹部さん。おとなしーく降参してくれるなら手荒なことをするつもりはないけど?こちとら別にここを潰そうと画策しているわけじゃないし。どする?」
と、ここまでほったらかしにされ続けてきたスナッチはしばらく顔を下げ続けたままだが、やがて肩を揺らし始めた。
「なんだ?頭のネジでも外れたか?」
「いや、それはもともと外れてたでしょ。見た感じだと余裕の笑いって感じがするけど。」
スナッチは肩を震わせながら答える。
「ああ、そうだ。おかしくてたまらないのさ。
――――――たった三人でこの堅牢な城に突っ込んできた愚かさがな!」
その言葉を合図に、扉から一斉に武装した集団が押し入ってきた。
「人数は大体15人ってとこかな。」
「正確には17人ですけどね。」
「・・・いや、せっかく少しかっこつけたのに揚げ足取らないでよ。」
「なんのことですか?」
「おいこらテメーら、だからいつまでくっ喋べってんだよ。とっとと構えろよ。」
「ほいほ〜い。」
既にハンマーを構えているグロウに促され、ルインも刀を抜く。その様子を見てスナッチは悲しそうに肩を振る。
「やれやれ、これだけの武装した兵士を前に戦えると思っているとは。可笑しさを通り越して哀れみを感じるよ。」
「数の暴力というやつですねわかります。でもぶっちゃけそんなにご親切に負けフラグ立てちゃうような奴が本気で勝てるなんて思ってる方が哀れだと思うけど。」
「ふん。せいぜいあの世でほざいてるがいいさ。かかれ!」
「いやだからそれ負けフラグだってば。」
とルインが言い終わらないうちに一斉に襲い掛かってくる。