ACT ARME1
「それはてめーが住んであるアパートが邪魔だったからだろ?」
「いや、それでもおかしいでしょ。一応誘拐は犯罪行為なわけで、それが露呈した時ハマなんとかの制作なんて言ってる場合じゃなくなる。そんなことも分からない馬鹿じゃないと思うし。ツェル、敵企業ってどのくらい大きいの?」
「そうですね。大企業と言い切るには少し語弊がありますが、ここ数年の成長率は著しいですね。まあ準大企業といったところでしょうか。」
「じゃあそのくらいの企業なら金で釣り上げて色々ともみ消すことができると思う?」
「その色々がどのくらいの物かによりますが、大抵の事象ならなかったことに出来るかと。しかし、それを考慮したとしても、腑に落ちない部分はありますけどね。」
「何が?」
「ルインさんの言うとおり、何も誘拐なんてする必要はありません。ただその辺りにうろついているゴロツキを金で釣り上げればいいだけです。」
「それだと自分らの仕業だってバレると思ったからじゃねえのか?」
「別に釣り上げるのにわざわざ身分を明かす必要なんてありません。そういう連中は金さえあれば動くと思いますし、ただ出て行かせるように毎日周辺で騒ぎ立てるだけですから、特別何か技量が必要というわけでもありません。」
「まあ、確かにねぇ。」
「そもそも、なぜあの企業はルインさんのアパートにこだわるのでしょうか?そこにも納得がいきません。」
「ん〜〜〜〜・・・。僕のアパートを狙わなければならない理由があるとか。」
「そういうことになるでしょうね。」
「でも別に僕ん家に特別な何かがあるとは思えないけどなあ。」
「うるせーな。そんなもん奴らに直接吐かせりゃいいだろうがよ。」
「ま、それもそうなんだけどね。」
「本当に、くれぐれもやりすぎには注意してくださいね。あ、到着しましたよ。」
三人は一つのビルの前で立ち止まる。
「悪の秘密結社のアジトにしては、外観普通だね。」
「いやいや、風変わりな外観にする必要はないでしょう。」
「おい、ぐだぐだくっ喋ってねーでとっとといくぞ。」
いきなり襲撃に行こうとするグロウをツェリライが制する。
「待ってください。その前にまずこれを持っておいてください。」
そう言ってツェリライが渡したものは、各個人の顔写真の載った一枚のカードだった。
「なにコレ?」
「治安部隊の隊員証です。もちろん偽造物ですが。急ごしらえで作成したものなので、精密に検査されれば一発で偽物だと看過されてしまいますが、少なくとも一般大衆の目を欺くことぐらいは簡単にできます。」
「よくまあこんなものを作ったね。ちゃんと見る角度を変えたら模様が変わる仕掛けも作ってあるし。」
「その程度の玩具なら一晩で作成できます。」
「で?コイツでどうするつもりなんだ?」
「まず第一に、大家さんを誘拐した黒幕がここであると確定できないことがあります。」
「え?タイミング的に間違いなく真っ黒だと思うけど。」
「その点に関しては同意しますが、逆に言えばその状況証拠しか存在しません。もし偶然このタイミングであのアパートに強盗などが入ったという可能性もありますから。」
「ずいぶん都合いい偶然だな、オイ。」
「ですが、直接証拠がない以上、ただ押し入ったところで白を切られたら手も足も出ません。それどころかこちらが悪人にされてあのアパートは完全に向こうの手に落ちるでしょうね。」
「だから、治安部隊の振りして中に入って証拠を見つけると。」
「そういうことです。お二人は何も話さなくて大丈夫ですから、僕に任せておいてください。」
「わかった。じゃあ、潜入しますか。」
三人はビルの中へと足を踏み入れていった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で――――。」
受付係が皆まで言う間もなくツェリライは異常なまでにカウンターに近寄り、さっきの偽造隊員証を見せる。
「お手数をおかけして申し訳ありませんが、責任者の方はいらっしゃいますか?」
「え?あ、はい。かしこまりました。少々お待ちください。」
戸惑いながらも電話を手にとり連絡を取る連絡係。
その戸惑いは、なぜ治安部隊がここへ来たのか、それともツェリライがやたらと近づいてきたから警戒したのか、はたまた見た目的に本当に治安部隊なのか訝しんだのか、それは誰にもわからない。わからないが連絡は取ってもらえたようだ。
少しして社員がやってきた。案内されるままについていく三人。ルイングロウの二人は今のところおとなしくついてくる。
やがて重厚な扉に通され部屋に案内される。
「こちらで少々お待ちください。」
そして三人が残された。
やがて扉が開き一人の男が現れた。
「お待たせいたしました。」
相手が入ってくるや否や偽造証明証を提示するツェリライ。
「こちらは治安部隊捜索係課長のツェリライといいます。後ろは部下のルインとグロウです。」
「ああ?誰がぶっ!」
突っかかろうとするグロウを瞬間的にルインが抑えた。相手はそこまで怪しまなかったようだ。
「私はエレクトンゴーダツカンパニー専務のスナッチと申します。この度はご苦労様です。それで、一体どんなご用件でしょうか?」
「いえ、今一つ誘拐と見られる失踪事件が起こっていましてね。失踪したのはアパートの大家を勤めている方で、先日の朝頃に住民から通報が来たんです。どうやら一切住民に気づかれることなく事を終えたようで、犯人の姿を目撃したという情報は今のところ挙がっていません。そこで犯人が逃走したと思われるエリア近辺の情報を集めているのです。」
単刀直入に切り出すツェリライ。
「そうなんですか。ご苦労様です。しかし、なぜまた誘拐だと断定できたのですか?ただの失踪だけでは誘拐だと言い切れないのでは?」
「はい、その通りなのですが、住民の通報によると被害者が毎朝いる部屋が異常に荒らされていたため、誘拐である可能性が高いと見て捜査しているのです。」
「そうですか。ですが、先ほど犯人は住民に気づかれることなく犯行を成し遂げたとおっしゃっていましたが・・・」
「ええ。それはどうやら住民がそれだけの騒ぎが起こったにもかかわらず目を覚まさなかったことが原因であるようですね。こう言っては通報された方に大変失礼ではありますが、捜査する側としては騒ぎに気づいてすぐに通報してもらいたかったものです。」
非常に当て付けがましい台詞に、思わずルインが口を挟む。
「ま、まあまあ課長。通報者も眠かったんでしょうし、過ぎたことを愚痴っていてもしょうがないでしょ?今は情報を集めましょう。ねっ?」
「・・・・・・まあそういうことにしておきましょう。そのような事情により、貴社にも協力をお願いしたのです。」
「そういうことでしたら喜んで協力いたしましょう。」
「それでは早速質問させていただきます。 貴社は誘拐犯を匿っていませんか?」
「!?」
あまりにも唐突にどストレートに直球質問をぶつけたツェリライに、場の空気が一瞬凍る。ルインもグロウも驚いたようだ。
「・・・・それは一体どういうつもりですかな?」
「額面通りに受け取ってもらえば結構です。」
「つまりわが社がその誘拐事件の黒幕であると疑っていると解釈するのが正しいということですかな?」