セクエストゥラータ
そんなのは、身内びいきの過大評価だ。
「あれ? アンタ一人なの? おかしいなぁ」
気が付くと由佳が一人で戻ってきていた。
頭が真っ白になる。
「奈津美は!?」
由佳の肩を掴んだ。
「ちょっと痛いって」
力加減ができないほどに冷静じゃなかった。
「奈津美は!?」
「いつまで待っても出てこないから先に戻ってるかと思って……ちょっと痛いってば!」
僕はすぐさま黒木先輩に電話を掛ける。
「今どこですか!?」
「あぁすまん、もうすぐ着く」
「奈津美がいなくなったんです。とにかく急いできてください」
「なっ!? わかったすぐ行く」
僕は由佳を見る。
「先輩と一緒に奈津美を探してくれ。何かあったら電話する」
僕は由佳の返事を待たずに走り出す。
奈津美! 奈津美!! 奈津美!!
どうしてだ。嫌な予感しかしない。
「なつみーー!!」
……奈津美は見つからなかった。
愛花さんに連絡して、警備にあたっていた地元警察にも協力して探してもらっている。
ホテルに戻っているかもしれない、と言われて渋々戻ったホテルにも、奈津美の姿はなかった。
万が一はぐれた場合に備えて、奈津美には携帯電話の番号を書いた紙を持たせてあった。
その紙には『私は日本人です。この番号に電話をさせてください』とイタリア語で書いてある。迷っただけなら連絡があってもおかしくないはずだ。
「誰がっ! 何のために!?」
誘拐されたという言葉を誰もが口にできない状況だった。
最後に奈津美と一緒にいた由佳は、一人で部屋に閉じこもって泣いている。責任を感じているのだろう。
ごめんね、由佳。僕がしっかりしなければ。
不意に、僕の携帯電話が鳴り響いた。
それは試合開始を告げるホイッスルとなったんだ。