セクエストゥラータ
W杯グループステージ開始前から、日本チームはほぼ確実に一位通過すると見られていた。それは、過去の対戦成績や、チーム戦術の相性、主力選手の調子、怪我などの状況を考慮した上ではじき出された予測だ。
どのスポーツにも言えることだが、試合の勝敗に絶対はなく、予測は予測でしかない。
それでも、日本と同じD組のチームは、組み合わせ抽選が終わったその瞬間から、二位通過を狙わざるを得なかった。
今回の日本代表チームは、それほどまでに強かったということだ。
代表監督としては、誇らしくもありプレッシャーでもあったが、チームの仕上がりには自信があった。
俺は、脅迫を受けた。
その内容は言わずもがな、負けろ、というものだ。
別段珍しい出来事ではない。通常は本人の目に入ることなく処分されるし、本人が目にしたとしても、相手にせず破り捨てる。そんな下らないものに気を取られているようでは、代表監督など務まりはしない。
『お前の娘を誘拐する』
幸か不幸か、一通の脅迫状が俺の目に入った。
同封されていた一枚の写真には、隠し撮りされた河合奈津美が写っていた。
二十三年前を思い出す。
届けられた脅迫状。
一枚の写真。
そこに写ったテオドラの姿。
笑い飛ばして試合に出場したあの夜。
何の確証もないが、同じヤツの仕業だと思った。