セクエストゥラータ
表向きには、原田は体調不良で出場しなかったとされているが、シーズン終了後に起きた原田の退団と監督の解任という二つの出来事がそれを否定していた。
大衆誌のゴシップ記事には、イタリアにいる三年間で関係を持った女性の数は、五十人とも百人とも書いてあった。
お腹に原田の子供がいると名乗り出た女性がいたが、それは真実ではなく金目的の嘘だったらしい。
テオドラと原田との関連性は、何一つとして立証されなかった。
病室を訪れたあの刑事は、捜査目的ではなく売れるネタを手に入れるためにやってきたのではないかとさえも思う。
イタリアという国の人間は、この手の不祥事に対して寛容な姿勢をみせる。全員がそうだとは言わないが、本職の仕事をきっちりとこなしてさえいれば、多少の不祥事には目を瞑る。
何人の女性を口説き落とし、そして泣かせようとも、それは構いはしない。オレもそう思う。
だが、命が関わることは別だ。
振られたぐらいで身を投げる方がおかしい、という意見を持つ者もいるだろう。それについては否定はしない。勿論、肯定もしない。絶対に。
イタリアのファルファローネとは、真実美しいと感じた女性に対して、真実の愛を囁き、真実の愛を捧げるものだ。手当たり次第に手を出すものとは違う。
どれだけサッカー選手として優れていようとも、男として、人間として、尊敬の対象にはならない。対象にはできない。
いつかオレも、なんて愚かな夢を追い掛けていた。だがオレは、あんな男にはなりたくなかった。
オレが抱いてたサッカー選手への憧れは、憎しみへと姿を変えた。
―― 二度とサッカーはしない。
オレがサッカーを辞めたのは、才能がなかったからだ。
決して、父が好きだったサッカーを嫌いになったのではない。
決して、姉が愛したサッカー選手を憎んでのことではない。
オレがサッカーを辞めたのは、才能がなかったからだ。
ただ、それだけだ。