セクエストゥラータ
原田監督は代表チームの監督なのだから、こんなインタビューなんかは幾度となく放送されているのだろう。
けれど、僕はサッカーの話題を意図的に避けていた。だからこれは断言できる。テレビで見たんじゃない。
僕がどこで見たのかを思い出そうと首を捻っている間に、取材の時間が終わってしまった。。
「監督、貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございました」
「キミみたいな美人とは、二人きりで会いたいね」
深々とお辞儀をする愛花さんに対し、原田監督はそんな軽口を投げ返していた。
僕は、固まりかけていたイメージが霧散していくのを感じた。あとほんの少しで思い出せそうだったのに。
「これ、監督に届けてくれ。預かっていたのを返し忘れた」
僕をスタッフの一員だと思ったのか、スーツ姿の男がサングラスを差し出してきた。きっと、あまり現場に出ない“お偉いさん”で、スタッフ全員の顔を覚えていないのだろう。
原田監督に話し掛ける千載一遇のチャンスだと思った。
「監督」
僕は原田監督を追い掛け、呼び止めた。
「眼鏡をお忘れです」
「あぁ、すまない」
原田監督は僕からサングラスを受け取ると、そのまま装着した。
「ん? まだ何かあるのかな?」
僕は間を持たせるために、明日は厳しい戦いになると思いますが、精一杯応援させて頂きます、と言って頭を下げた。
「キミは、日本はイタリアに勝てないと思っているのかな?」
「始まる前から勝てると分かっている試合はないと思います」
原田監督はたった一言、そうだな、と言った。
そして僕は、その直後に言葉を失った。
確かめなければならないことがあったのに、僕は何も言えなくなってしまった。
そう、僕は気付いてしまったんだ。
犯人と原田監督とを結びつける糸に。