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三色もみじ

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英美


 英美は、いつの間にか二人連れの行動に興味を持った。五十代と思える男女が、仏像の前で、軽く拝んでから、しきりに話している。そして笑う。夫婦なのだろうか、自分の周りにいる夫婦を思い浮かべるが、仲がよくても、どちらかが喋ってもう片方は言葉少なかったりする。あきらかに惰性の夫婦もいて、どうしても必要なことしか喋らないという感じの夫婦もいる。
 やはり夫婦では無いだろうと直感で英美は思った。それは二人の距離なのだろう。微妙に身体を触れ合わないで、近くにいる。仲の悪い夫婦だったら、もっと距離があく。英美は自分と昭雄がここを歩いた時の二人の距離を思い出す。坂道で手を引かれたり、昭雄の腕につかまって歩いた。昭雄の腕の感触がよみがえって、英美は体のどこかがきゅんとなるのを感じた。(会いたい)と思った。英美は振り返って下方の紅葉を見た。ああ、一緒にこの風景を見たかったなあと思う。だんだんと鮮やかな紅葉が色あせて見えてくる。それでも長年そうしてきたように感情を押し込めて歩き出す。
 英美と中年男女の二人連れの距離が縮まった。二人の喋る声が聞こえる。
「闇があるから、灯りが有難く思えるのじゃ」
「止まない雨は無い」
 二人はそう言って笑い合って、歩いて行った。英美は何処にそんなことが書いてあるのか仏像の脇に彫ってある文字を見たが釈迦牟尼とか、寄贈者の名前しか無かった。英美は興味を持って二人の後について行く。どっちみち番号順に回るとそうなるのではあるが。
「うーん、これ怖そうな顔だよ」
「軟弱ものー、なんて怒られそう」
「すみませーん、がんばりまーす」男の方がそう言って、女のほうも「がんばりまーす」と言って二人で歩いて行った。
 二人は微妙な距離を保ちながら歩いて行った。英美も真似をして仏像に「がんばりまーす」と心で言って歩き出した。ちょっと前に感じた惨めな気持ちが、少しずつあたたかく明るい気分になっていく気がした。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川