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三色もみじ

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武志


 武志は側に並んで歩いている笑子を見ながら「なんか、不思議な気分だねえ、こうやって二人で歩いているなんて」と言った。
「そうね」と笑子も真顔で言った。
 武志は少しくすぐったい感じに思いながら並んで歩く。幼なじみとはいえ、二十数年会っていないと全く別人のような気もする。その別人と、短い時間のあいだに二人の距離がどんどん縮まってゆく気がした。
「えーと、何て読むのかなあ、こくう」笑子が仏像の脇に彫ってある字を読んでいる。
「虚空蔵菩薩だね、こくう読めたね」
「あ、バカにして、きょくうと読めばよかった? そうすると偉そうにこくうって読むんだよとか言うんでしょ」
「あたりい。あ、この表情仏像っぽくないね」
「あ、私もさっきからそう思ってたあ、これ寄贈した人の名前があるから、似せているかもね」
 笑子が鼻歌でも歌うようにかろやかに次の仏像に向かって歩いてゆく。ここは八十八箇所巡りができるようになっていて、番号をふった案内板と地蔵のような仏像がある。
 武志は少し離れて紅葉と笑子を一緒に視界に入れた。笑子が上を向いて紅葉を眺める。こんな風に特定の女性を見るのは、何年前かはもう忘れてしまった。何だか青春時代に戻ったような気にもなって、笑子へ向かって歩き出す。
「ね、これはさぁ、まあがんばりなさいって言ってるよ」
 笑子が仏像の表情を見ながら言う。そう思うとそんな風に思えてくる。武志もその見方が面白くなってきて、次の番号の所で「うーん、口が少し曲がってるぞ、皮肉屋かな、けっ!頼み事ばかりしやがってとか思っているよ、きっと」と言ってみた。
「あはは、ホントだね、賽銭をあげたら口が治ったりして」
 武志は笑子が、みかけより感性が若いのに気づいた。冗談も通じて嬉しくなった。番号を探して、歩いた。この遊びは面白かった。そして武志が考えている間に笑子が「うん、世の中はそんなもんだよ」とか「そう、大変だったね」とか言うのが早い。直感力というのだろうか。それでいてちゃんと美しい風景に、感激の声をあげる。結構急な坂もあって、
少し息が弾んできて、ハイになってきたのだろうか、武志はどんどん笑子に惹かれてゆく自分を感じた。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川