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三色もみじ

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武志


 伊藤武志は高幡不動の改札を出て幼なじみの笑子(えみこ)の姿を探したが、誰か仲間の来るのを待っている数人のグループがいるが、その他に人待ち顔の姿の数人は違うだろうなと思った。最後に会ってからもう、二十数年経っている。ただ何となく行けばわかるかなと思ってもいたのだが、さてどうしようかなと思った時、 数人のグループのかたまりの中の一人が武志を見て微笑んだ。ジーンズ姿で背中に小さなリュックを背負っている。
 武志が近づいて行くと、笑子は微笑みながら、「わかんなかったんでしょう。私はすぐわかったわ。でもここの仲間の振りをしてしらんぷりしてみたの」と数人のおばさん達を目で示しがら悪戯っぽい顔をして可笑しそうに言った。
「うーん、夕べ電話をしている時点で、顔が頭に浮かばないんだ。高校時代と、そのあと2回ぐらい会っただけだからなあ」武志が笑子の昔の顔と現在とを見比べながら言った。
「私、変わったでしょう」
「うーん、痩せた?」
「ま、ずうっとこんなものよ」
 エスカレーターで降りながら「ここはね、紫陽花がきれいなんだ」と武志が言う。
「昔、来た事があるわ」
「昔って」
「もう何十年も前」
「あはは、お互い歳だねえ。俺もね、久しぶりに兄貴の所に行ったんだ。年数を数えたら二十数年前なんだよ、いやんになっちゃうね」
「昔の単位が若い時は数年で、十年一昔の時代があって、もはや昔といえば二十、三十年かあ」と笑子がしみじみと言う。武志も一緒になって「もう笑うしかない」と言った。
「あ、紅葉が少し見える。きれい」 笑子がはしゃいだ声をあげる。
「ま、その前にそこの休憩所で少し話をしようか」
 自動販売機でお茶を買って椅子に座った。
「離婚したんだってね。電話で聞いた時びっくりしたよ、あんなに仲がよさそうだったのにねえ」笑子が言うと、武志は「いつの話だよ。あ、あなたが小さい子供を連れて俺の新婚家庭に来た時かあ、あと一人、ああ樋口さんも一緒だったね」と昔を思い出しながら言った。
「中学まで同じ学校でねえ高校はそれぞれ別だったけどね、おかしいね、別々の学校に行くようになってから、より友達になって三人で出かけたりして」 笑子も昔を思い出し、懐かしそうに話す。
「その樋口さんはどうしてる? 俺はずうっと会ってないけど」
「結婚して、旦那さんの故郷の九州へ行っちゃったから、私も年賀状のやりとり程度」
「そうかあ、まあ幸せに暮らしているんだろうなあ」
「それよりさあ、エミコさん、旦那さん亡くなったんだってねえ知らなかったよ」
「もう二年経つかなあ、なんかいいそびれちゃったというか。年賀状もいつの間にか出さなくなっていたからね」
「あ、俺もね」
 少し間があって笑子が「で、伊藤さんは、なんで離婚になっちゃったの」と聞く。
「あれ、昔は伊藤くんって呼んでなかった」
「あ、そうだったね。今思うと偉そうに聞こえるねえ、おい伊藤くん。なーんて」と笑子が言って、自分の離婚の話題が逸れたのをいいことにして、武志は「さあ、行ってみるか」と言って立ち上がった。
「あ、逃げたな」と、笑子は答えは後でというように立ち上がった。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川