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三色もみじ

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武志


 暖かい日差しを浴びて、武志は少しの間、ぼーっと紅葉の葉が落ちるのを見ていた。
「さっきの仏像さぁ、薬師如来が多かったね」
 笑子が無言の空間を無理に埋めようとするように言った。
「病気がなかなか良くならなかったら、何でもすがりたくなるだろうからね」
「わたしも、もっとそういうものにすがれば良かったのかなあ、でも、そんな状況ではなかったしなあ」笑子はやや前を向いたままやや下向きで言った。
「だんなさん、何で亡くなったの」武志は、急に老けて見える表情になった笑子をみながら尋ねた。
「うーん、死因は肺炎だけど、癌だったのよ、胃癌、胃を全部とっちゃったのね。手術は成功だったんだけど」と笑子は間を置いて、「手術して半年ぐらいたった頃に風邪をこじらせてねえ」
「ああ、そうだったの」と武志は相づちをうって、あまり聞きたくもない話だなあと思いながら笑子の横顔をみる。ちょっと前に感じていたウキウキしたような気分が冷めていくのを感じた。
「肉は脂身のないところ、野菜は火を通して柔らかくしたもの、不味いって怒るし、魚嫌いの人だったんで料理は大変だったわ。そもそもあまり得意じゃないのにね」笑子はそう言って、やっと笑子らしく笑った。
 武志はちょっとだけ笑子とその夫との生活を想像して、胸がチクリとなるのを感じた。これが恋だったらと武志は思う。知りたくもないことを知るようになるし、自分のイヤな所も見せてしまうことになる。今の軽い感じがずうっと重くなるのだろうか。陽が少し傾いて、二人の座っている所をだんだんと日影にしてゆく。
「少し寒くなってきたかなあ」と武志が言うと、笑子が「行きましょうか」と昼食の後片付けを始めた。
「はい、これ食べちゃって」と笑子はサンドイッチの残りを武志に渡した。
「なんだか夫婦みたいじゃない」というと、笑子の表情が照れたように微笑むので、武志は冷めかけていた気分がまた戻るのを感じた。目の前で女性が支度が終わるのを待っているのもいいものだなとも思った。視線を広場に戻すと、独りで昼食を食べていた女性が歩き出したところだった。何となくその後ろ姿を見ていた武志に、「あのひと泣いてたでしょう」と笑子が支度を終えて武志の脇でそう小声で言った。
「え、そう、気がつかなかった」武志が歩きながらそう言うと、「ほら、今も泣いているみたいだよ」と笑子は、その女性を追うように武志の先に立って歩き出した。その少女のような姿や好奇心に、やはり友達かなあと苦笑しながら武志は笑子の後ろから歩き出す。歩きながら、いやまてよと思い直す。娘と公園に行った遥か昔を思い出し、(親子かよ)と自分につっこみを入れて「おーい、転ぶなよ」と笑子に声をかける。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川