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三色もみじ

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武志


「さっきの話だけどね、聞いていい」笑子が武志に聞く。 
「聞くのはいいけどね。答えるかどうかは」と言いながら、武志は笑子が自分の興味を持ってくれて、さらにもっと知りたいと思うことの意味を考えている。好きになってくれたのだろうか。そして、と考えて嬉しいような半分怖いような気もした。
「それでは質問です。離婚したのは何年前ですか」
 笑子はインタビュアーになって、感情を交えず答えやすくしている。
「そうですねえ、二年前ぐらいですかね」
 笑子は「あら、旦那が亡くなった頃」と小さく言って
「お子様はその時どうしましたか」
「お子様、あ、娘はその頃は結婚しています」
「俗に言われる熟年離婚ですが、原因は色々あると思いますが、一番の原因と思われるものは」
「わかりません」
「わかりませんで、離婚したのですか」
「はい、わかれませんで押し通したのですが、負けてしまって」
 一瞬の間があって、笑子は笑い出した。武志もこのインタビューごっこが面白く思えてきた。
「別れた奥様とはその後会われていますか」
「いいえ」
「会いたいと思いますか」
 武志は返事に困った。会いたいような気もするが、会わないほうが良いような気もした。
「質問を変えます。奥様を今でも愛していますか」
 武志は笑子が自分を好きになっているのかと思ったが、それはうぬぼれかもしれない、もう白髪が出ていて頭髪も薄くなって来ている。気を取り直して「あ、これインタビューじゃないの、だんだん裁判所で訊問されているような気がしてきたが」と言うと、「あらっ」と笑子は少し照れたような顔をして下を向いた。少女のようなその姿が可愛らしく思えて武志は抱きしめたくなったが、さすがに行動には移せない。
 そんな気持ちを振り払うように周りを見渡した。紅葉の数は最初に見た場所よりは少ない。広場の向こう側左右にベンチがあって、右側には老人とその娘と思える女性が弁当を食べている。一緒に食べているというより、娘がたまに会う父親に、今までこれなかった分を弁当で必死に埋め合わせしているように思えた。精彩のなくなった父親とだんだん若くはなくなってゆく娘。そんな想像をしていると、
「はい、食べて」と笑子がお握りを差し出した。武志はそれを受け取った。「ありがとう」と言う声にかぶって笑子は「ねえ、昔さあ私のことどう思っていた?」と聞いてきた。好きなことは確かだったが、恋心があったかと聞かれると自信がない。
「うーん、初恋の人かな」と半分笑いながら言うと、笑子はまんざらでもなさそうに下向き加減で微笑んだ。武志はあなたはと聞きたくなったが、笑子の今の表情をみてそれは、わざわざ聞かなくてもいいかなと思った。
「あそこの人さ、独りでここに来たのかな」
 笑子そう言って見ている視線の先にはベンチで独りでお昼を食べている女性がいる。武志もその方を見る。

作品名:三色もみじ 作家名:伊達梁川