Remember me? ~children~ final
「能天気で、いつも笑っていて。……勉強も出来てしっかりしているマミのくっ付き虫。おまけに麗太と付き合いだす始末だ。皆、そんな平井に嫌気が差してたんだよ」
今まで私は、誰かに嫌われている事にすら気付けずに、毎日をのうのうと過ごしてきたとでもいうのだろうか。
その結果が今日の私。
「皆、平井への態度を偽っていたけど、とうとう爆発したんだな。平井にだけは偽物の態度をとって」
偽物……それこそが今の私。
「付いて来て。見せたい物がある」
光原君は言い、川沿いにより近付いた。
私もそれに続く。
川沿いスレスレの草むらに、汚らしいゴミ袋が転がっている。
光原君はそれを足で蹴りながら、私のすぐ前に転がした。
嫌な予感がする。
このゴミ袋の中だけは、絶対に見てはいけない。
そう直感した。
「光原君……これ……」
手が汚れるのも気にもせず、光原君は袋の結びを解く。
中にある物が、やがて姿を現した。
赤黒く腐った肉塊、焦げ爛れ破れた皮から生える白い毛。
集る蝿や蛆虫の群れ。
見てすぐに分かった。
何かの動物の死骸だ。
立ち込める悪臭と、それを見てすぐに湧きだった悪寒。
反射的に吐き気が込み上げたところで、堪らず必死に口を押さえて目を反らした。
光原君は淡々と喋り出す。
「これ、俺がやったんだ」
こんな事、人間のする事じゃない。
この時、私は初めて人を軽蔑した。
今までに感じた事のない様な、憎悪の対象がすぐ目の前にいるのだ。
「最近、駄菓子屋の猫。見掛けないだろ?」
問いに無言で頷く。
「そうだよ。これがマルなんだから……」
言葉を失うと同時に、更なる恐怖心が私の中で増大した。
光原君が少しずつ、私の方へ進んでくる。
その度に、私の足は一歩ずつ後ろへ下がる。
「全部、平井が悪かったんだ。この猫だって、平井が触る時は普通だったのに、俺が触ったら噛みついて来やがった。だから口にロケット花火を押しこめて、殺してやった」
「やめて……もう何も言わないで!」
「マミだって、裏でクラスの奴らに虐められてたんだ」
「嘘だよ! マミちゃんなら、私に相談してくれた筈だよ!」
「平井が宛にならなかったんだろ」
沈み切った光原君の声は、ズキズキと私の心を次第に突き刺していく。
「麗太は、俺にこう伝えてくれた」
麗太君まで……。
「いちいち鬱陶しい」
麗太君の本音。
それが私にとって、最後に耳にした言葉だった。
もう一歩下がった所に、足場はなかった。
景色が一気に急降下して一転する。
目の前には暗闇が広がり、体中をナイフで刺されたような感覚を覚える冷たさが、私の頭から爪先までを覆っていた。
川に落ちたのだと、ようやく気付いた。
岸に這い上がろうとするが、体が思う様に動かない。
苦しくて目も開けられず、ただ手足をバタつかせる事しか出来なかった。
もう落ち着いた思考を巡らせていられる余裕は、今の私にはなかったのだ。
やがて全身の力が抜け、体が動かなくなる。
私、ここで死ぬんだ。
今までの事を思い出してみると、胸が痛んだ。
私はいつもマミちゃんのオマケで、引っ付き虫だった。
マミちゃんに構ってもらえなかったここ最近は、麗太君の元へ逃げてばかりだった。
やっぱり鬱陶しかったんだ。
それにママ……。
優太っていう子の代わりになれなくて……馬鹿で、ごめんなさい……。
皆、ごめんなさい。
作品名:Remember me? ~children~ final 作家名:レイ