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Remember me? ~children~ final

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 学校にはちゃんと行こうって、断られるかと思った。
 きっと、いつもの麗太君ならそう言っていただろう。
 でもなぜだか今日の麗太君は、私のお願いを聞き入れてくれた。


人気の多い商店街や大通りでは、私達のような小学生が昼過ぎに出歩いていたら注意を受けてしまう。
 注意をするような大人の目に触れられず、長くいられる場所。
 旧街の方の駄菓子屋だ。
 元々、駄菓子屋の周辺の住宅地は、私達の住む住宅より古く、商店街に比べればあまり人通りも多くない。
きっと、おばあちゃんなら分かってくれると期待を胸に、駄菓子屋の戸を開けた。
 やはり店先には誰もいない。
 いつも通りだ。
 いつも通りだからこそ、ここに来ると安心する。
「お婆ちゃーん!」
「はーい!」
 店先より奥の部屋から、すぐに私への返事が返ってきた。
 おばあちゃんはサイダーを手に二本持って、奥の部屋から出て来た。
「優子ちゃんが来るとしたら、麗太君も一緒だろうと思ってね。ほら二人とも、サイダー飲みな。金はいらないよ」
「ありがとう」
 私と麗太君はサイダーを受け取る。
 炭酸が溢れ出ないように、そっとキャップに埋め込まれたビー玉を中へ押し出した。
 けっこう慣れてきたものだ。
 麗太君は慣れた手付きでさっそく開けて、もう飲んでるけど。
 お婆ちゃんは側に置いてあった椅子に腰掛けた。
「ほら、あんたらも座んな」
 私達も側にあった椅子を寄せて、そこに座る。
「あの、お婆ちゃん……今日は、私達……」
 一応、話しておこうと思った。
 学校をサボった事……出来る事ならマミちゃんや光原君の事も。
 でもお婆ちゃんは、出掛かった私の言葉を遮った。
「いいよ。なんとなく事情は分かるさ。第一、私に話してもしょうがない。まだ若いんだから、今のうちに悩めるだけ悩んでおく事さね」
 言っている事は正しい。
 私達が誰かに話したところで、その誰かが問題を解決してくれるわけではない。
 やはり最終的には自分達の問題になるんだ。
「そういえば前にも……確か、あれは今日みたいな平日の昼だったかな。マミちゃんが訪ねて来たんだよ。学校をサボって来たってね。あんたらと同じだよ」
「嘘? マミちゃんが?」
「そうだよ。あの真面目なマミちゃんだって、学校をサボりたくなる日くらいあるのさ」
 マミちゃんも……私達と同じだったのだろうか。
 どこか空気の重くなったクラスの雰囲気も、マミちゃんと光原君も……ずっとこのままなんて絶対に嫌だ。
 今の悪い状況を変えるには、まず学校へ行かない事には始まらない。
「麗太君」
 彼はメモ用紙を示し、私に合図する。
『たぶん今、優子と同じ事を考えてた』
 麗太君も分かっているんだ。
 このままではいけない事。
 私と麗太君で寄り添って、マミちゃんや光原君から逃げるのではなく、向き合う事を。
 ちょっと前までは、腹を割って話せた友達だったんだ。
 きっと大丈夫。
 私達はお婆ちゃんにお礼を良い、駄菓子屋を後にした。

 どうしてか足取りが軽い。
 ここ最近、学校へ行く事が億劫になっていたせいかもしれない。
 何の目的もなく学校へ行き、マミちゃんの様子を覗い、時には麗太君の元へ逃げていた。
 でも、もう大丈夫。
 明確な目的が出来たから。

  =^_^=

 駄菓子屋から出て暫く、なぜだか麗太君は背後を覗っていた。
「どうしたの?」
 こっそりと麗太君は筆談する。
『駄菓子屋を出てすぐ、後ろから知らない女が着けてきてる』
「え?!」
 麗太君は『静かに』とジェスチャーする。
 僅かに背後を振り返ると、誰もいない歩道の中央を歩いている私達よりも五十メートル程離れた所に、スーツ姿の女の人がいる。
 全ての髪を後ろで束ね、きっちりと黒いスーツを着込み、険しい表情で私達をジッと見ている。
 昼過ぎに、こんな所を小学生が歩いているんだ。
 大人が私達に注意を払うのも無理はないだろう。
「麗太君、走ろ!」
 私達は背後の女の人から逃げるように学校へ走った。


 学校に着いた頃には、もう給食の時間だった。
 こんな時間に来たんじゃ、博美先生に「給食だけ食べにきたでしょ」ってからかわれてしまう……いや、もしかしたら怒られちゃうかも。
 上履きに履き替えて、麗太君と騒がしくなったお昼時の廊下を歩く。
 ふと、前からクラスメイトの女の子が三人歩いて来た。
 擦れ違い様に話し掛けようとしたが、三人は私を素通りして見向きもせずに行ってしまった。
 どうしたんだろ。
 気付かなかったのかな。
 そんな筈はない。
 あんなに近い距離にいたのに。
 嫌な予感がする……。
 麗太君は心配そうに、すぐ後ろで私を見つめていた。

 教室に入り、机の上にランドセルを置いて気付いた。
 いつもなら、私に会えば誰かしら話しかけてくれる筈なのに、今日は誰も話し掛けてくれない。
 もしかして……皆が私を避けている?
 試しに、近くにいる二人の女の子に話し掛けてみた。
「ねえ」
 私が話し掛けるまで楽しそうに会話をしていた二人は、横目で私を見るなり会話を止め、席を立ってどこかへ行ってしまった。
 嘘だ……。
 だって昨日まで、普通に楽しく話していたじゃないか。
 他の子も、そうだった。
 男女共に、誰に話し掛けても応えてくれない。
 麗太君は?
 咄嗟に、彼の元へ逃げたくなった。
 しかし彼の姿は教室にはない。
 机の上には黒いランドセルが置かれてあるだけ。

 教室に取り残された私。
 給食を各席に配っている当番の子達が、私の方をちらちら見ながら小声で何かを話している。
「ほら、平井の分の給食、持ってけよ。早くしないと先生が来ちゃうし」
「えー、私……嫌だよ」
「俺も嫌だよ。でも、やらなきゃ……綾瀬が……」
 綾瀬?
 光原君は、この状況に関して何か知っているのだろうか。
 そんな考えが頭に浮かんだ時、男子が一人、私に給食を持ってきてくれた。
「あ、ありがとう」
 受け取ろうとした瞬間、給食を持ってきた男子は私の目の前で、食器を乗せていた盆を一気に引っ繰り返した。
 ご飯やおかずや汁物が、一気にランドセルを乗せてあった机の上に浴びせられる。
「え?」
 唖然とした。
 目の前の光景が信じられなかった。
 何よりも他人から、こんな仕打ちをされたのは生まれて来て初めてだったから。
 どうして良いのか分からず途方に暮れ、考えれば考える程に目蓋が熱くなってくる。
 なんで?
 嫌だ。
 こんな所で泣くなんて……恥ずかしい……。
 涙で歪む視界の中で、私を見つめる親友の姿が目に止まった。
 マミちゃん。
 助けてくれる……なんて期待したのが運の尽き。
 マミちゃんは私を見て数秒、顔色一つ変えず教室から出て行ってしまった。
 そんな、どうして?
「早く片付けろよ」
「泣いて済む問題じゃないし」
「ちょっと顔が良いからって調子に乗ってるんだよ。泣いて許してもらおうって」
 駄目だ。
 こんな所にいてはいけない。
 麗太君もいない……私を理解してくれる人のいない、こんな教室になんて。
 私は教室を飛び出した。
 溢れる涙を拭い、必死に走った。
 昨日まで親しかったクラスメイト達。
作品名:Remember me? ~children~ final 作家名:レイ