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Remember me? ~children~ 5

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 あまりマルには触った事はなかったが、たまには皆みたいに触ってみるか。
 しかし、俺だけは皆の様にはいかなかった。
 指先に鋭い痛みを感じる。
 マルに噛まれた。
 今までにない位に相手を敵視する様な唸り声を上げ、伸ばされた指先を噛んでいる。
「痛っ……」
 噛まれた指先を外そうと、マルの口から指先をずらす。
 すると更なる痛みが走る。
 なんだよ、これは?!
 いつもなら皆が触っても、こんな事はされていなかった。
 マルにとって、俺は敵視するべき人間だとでもいうのだろうか?
 噛まれている指先から、ポタポタと血が垂れる。
 こいつ‼
 強引に外せば痛みは一瞬。
 俺はマルの口から一気に指を引き抜いた。
 その反動で、マルの体は地面に転がる。
 指先にはマルの歯で噛まれた、血の滲む二か所の傷痕。
 一瞬の激痛の後の鈍い痛みが、指先に残っていた。
 ああ、そうか……分かった。
 こいつは俺の事を本能的に拒んでいたんだ。
 俺みたいな汚らしい人間を拒んでいた。
 いつも他人へ愛想笑いを浮かべて、人気者であろうと周りを意識して良い人ぶる。
 こいつは、そんな俺を見抜いていたんだ。
 本当は、ただ自分が幸福であると演じ続け、その反面で幸福な人間を忌み嫌い、それを隠してきた俺をの正体を、こいつは見抜いていた。
 猫って、人が分かるんだな。
 だから平井には、あんなにも懐いていたんだ。
 幸福な奴が憎い‼
 楽しそうに笑う平井が憎い‼
 この猫が憎い‼
 俺はマルの背中の皮を両手で鷲掴み、丸い体を持ち上げた。
 苦しそうに唸り、前足や後ろ足をバタつかせる。
 しかし、そんな事をしてもマルの体を制した俺には、もう傷一つ付けられやしない。
「良い人を演じ続けるのも大変なんだ。お前みたいに人を見抜く奴は邪魔なんだよ」
 掴んでいたマルの体を、一気に地面に叩き付ける。
 今までに聞いた事のない様な猫の叫び声が響く。
「お前が俺を見抜いたから悪いんだよ! 全部、お前が悪い!」
 そう連呼して、マルを数回地面に叩き付けた。
 皮が擦り剥け、地面に血が飛ぶ。
 鳴き声が小さくなり、動きも少なくなったところで止めた。
 近くにあったゴミ捨て場に置かれていたゴミ袋にマルを詰め、河川敷沿いの土手に持って行った。
一先ず川沿いの草むらに隠した。
 ここなら誰かに見つかる事もない。
 こんな所に来る奴としたらホームレスか、自己満足でゴミを拾って河川を掃除するような奴くらい。
 もし見つかったとして、勝手にこれを誰かが処理してくれるわけだが……。
 見つからなければ、この薄い呼吸で生きている袋に詰められた猫は、水や餌を与えなければ、おそらく数日で勝手に死ぬ。
 ……この程度じゃ面白くない。
 もう少しだけ痛めつけてやろう。
 最小限に水や餌を与えて毎日、少しずつ少しずつ嬲り殺してやる。
 お前は平井の代わりだ。
 人間を殺せば罪になる。
 でも猫なら大丈夫。
「お前は平井の為に、俺に殺されるんだ」


『マルを知らない?』
 麗太はメモ用紙で俺に伝えた。
「マルが? どうかした?」
 聞き返す俺に麗太は最近、全くマルを見なくなったと言う。
 平井もかなり心配していると。
 ああ、そうだよ。
 街で見つかる筈なんてない。
 今は俺が飼っているんだから。

 数本のソーセージとペットボトルに入った水、それと夏休みに使ったきり余った数本の花火を持って、マルのいる土手を訪れた。
 放課後に皆でサッカーをするのも断り、ここへ来た。
 今の俺にとって、マルを痛め付けるという事に、それ程の快感が生じていたのだ。
 今日は学校で良い知らせがあった。
 マミへの嫌がらせが止まったらしい。
 マミは自分で、そう俺に言ってくれた。
 これでもう、マミが悩む必要なんてない。
 マミへの嫌がらせが止まった原因は分からないが、それが終わったのなら良いに越した事はない。
 だから今日はお祝い。
 今日はマルには優しくしてあげよう。
 袋を開けると、マルは傷だらけの体を丸めてぐったりとしていた。
 体の各所の毛は剥げ、見える範囲の地肌には幾つも傷がある。
 かつて見た事のある、駄菓子屋にいた頃の活気はない。
 昨日、袋の中に入れておいたソーセージがなくなっているのを見るに、しっかりと食べたようだ。
 このまま死なれるのも面白くない。
 そうこなくては。
 袋の中のマルへ語り掛ける。
「ねえ、今日さぁ。マミへの虐めが止まったんだよ。マルも嬉しいでしょ? だからさぁ、今日は一緒にお祝いしようよ」
 ソーセージと一緒に持ってきた数個の花火の中から、線香花火を手に取り、先端に親父からくすねたライターで火を点けた。
 線香花火から、綺麗な火花が散る。
「今日はお祝い。だから花火だよ」
 先端を下に向け、マルの入っている袋の上にかざした。
 火花が袋の中へ入り、マルを少しずつ焦がす。
 真っ白な毛。
 先日、痛めつけた時にできた傷痕。
 大きな目。
 柔らかい肉球。
 全てを少しずつ焦がす。
 マルは小さく鳴きながら、身を震わしている。
 もう大きな動作をする事すら出来ないようだ。
 側にはソーセージと水と数個の花火が置いてある。
 数個の花火の中には、ロケット花火もある。
 これは、また今度にしよう。
 線香花火から、終わりを告げる一粒の小さな火玉が、袋の中へ落ちる。
 それがマルの背中を、最後に焦がした。
 微かに肉の焼ける様な臭いが周囲に発ちこめる。
「今日はこれで終わりにしてやるよ」
 ソーセージを袋に投げ入れ、その上からペットボトルの水を半分かけた。
 袋の口を縛り、狂った愉悦を感じながらその場を後にした。

  =^_^=

「そっか……今度はあいつが……」
「うん……」
 授業合間の休み時間、俺はマミに連れられ、、なるべく人目につかない一番奥の廊下にいた。
マミは俺に由美の話をした。
 マミへの虐めが止まって数日後、由美の様子がおかしくなったと。
 前々から由美の様子はおかしかったが、最近ではより酷いものになったと。
 まるで何かに怯えている様な……。
「もしかして連中、私から由美にターゲットを変えたんじゃ……」
「あいつは皆して、マミの事を虐めていた奴だろ? そんな奴、もう放っておけよ」
 これ以上、マミには虐めを楽しむ様なグループとは、関わって欲しくない。
「そういう訳にも……いかないって」
 あんな奴に、どんな思い入れがあるっていうんだ。
 あんな奴らにかまっていたら、もう次は何をされるか分からないのに。

 放課後になると、数人のクラスメイトが俺にサッカーをしようと誘ってきた。
 今日は土手までマルの様子を見に行く日だ。
 サッカーなんてしている場合じゃない。
「ごめん。今日は用事があってさ」
「何だよ? 綾瀬、最近付き合い悪いよ」
 まあ、たしかに。
 これ以上、皆に不信がられるわけにはいかない。
 終わりにする日も近いかもしれない。
 ランドセルを背負い、教室を出ようとした時だ。
 麗太に引き止められた。
「麗太、どうした? 今日はちょっと用事があって」
 麗太は手で『違う』とジェスチャーし、隣の平井を指差す。
 麗太の隣には平井がいる。
作品名:Remember me? ~children~ 5 作家名:レイ