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Remember me? ~children~ 5

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 日曜日のミサに来るか来ないかなんて、私や綾瀬の両親と同じで、当人の自由だから仕方がないのだけれど。

 聖壇に神父さんが立ち、説教が始まった。
 黒い大きな縁の眼鏡、男の人にしては長く伸ばした長髪。
 他の教会では知らないが、ここの神父さんは服装以外では、あまり聖職者と呼べる様な風貌はしていない様に思える。
 それでも説教はしっかりとしているし、クリスチャンの人達は皆が、神父さんを聖職者として信頼している。

 長い説教が終わると、最後にお祈りをする事が決まりになっている。
 両手を組んで目を閉じ、私達はキリストの銀に光る十字が飾られた聖壇へ祈りを奉げた。



Our Father who art in heaven, hallowed be thy name.
Thy kingdom come.
Thy will be done on earth as it is in heaven.
Give us this day our daily bread, and forgive us our trespasses, as we forgive those who trespass against us, and lead us not into temptation, but deliver us from evil.
For thine is the kingdom, and the power, and the glory, for ever and ever.
Amen.

 天にまします我らの父よ
願わくは
み名をあがめさせたまえ
み国を来たらせたまえ
み心の天に成る如く地にもなさせたまえ
我らの日用の糧を今日も与えたまえ
我らに罪を犯す者を我らが赦す如く我らの罪をも赦したまえ
我らを試みに遭わせず悪より救い出したまえ
国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり
アーメン



 聖体という一口サイズの小さなパンのような物が配られ、皆で閉祭の歌を歌って解散となる。
 聖体というのは、見た目も食感も小さな白いパンで、味は全くない。
 神父さんの話では、これはイエス様の体の一部であり、食す事によって彼の人生を私達の体に刻み込む事を意味しているらしい。
 一口で食べられるから、味はなくてもあまり苦ではない。

 解散し、皆が散らばっていく中、私と綾瀬、それとよく見知った顔の人達が神父さんやシスターさんの元へ集まる。
「マミさん。今日は何を作って来たんでしょうか? 実は私、朝ご飯はさっきの聖体しか食べていなくて、もうお腹がペコペコで」
 私が作って来るお菓子を楽しみに待っている聖職者……なんだか面白くて笑えてしまう。
「はい、ちゃんと作って来ましたよ」
 鞄から、箱に包んだワッフルを渡した。
「ワッフルです。皆に分けるんで、包丁とお皿を用意して下さい」
「分かりました。少しだけ、待っていて下さいね。すぐに準備をするんで」
 その後、神父さんが切り分けてくれたワッフルを、皆で分けて食べた。
 綾瀬、神父さん、シスターさん、他のクリスチャンの人達。
 皆が美味しそうに食べてくれた。
 笑い合い、他愛もない世間話をしながら。

「マミさんの作ってきてくれるお菓子は、皆を笑顔にしてくれますね。私のミサに皆が集まって来てくれるのは、あなたのおかげでもあるのかもしれません」
 教会からの帰り際、神父さんは私にそう言ってくれた。
 皆が美味しそうに食べてくれていたのもあるけど、僅かに自信が持てた様な気がした。
 また作って来よう。
 次は何が良いだろうか。
 また優子のお母さんに、他のお菓子の作り方も教えてもらおう。


 帰りの電車の中、右側のドアの側で。
 綾瀬はジッと外の景色だけを眺めていた。
 何か思い詰めたように。
 こんな風に外の景色を眺めるのは、今日に始まった事ではない。
 こういう彼は、今までで何度も目にしてきた。
 学校での授業中も、今日の朝に私と待ち合わせていた時も……いつも。
 この行動の意味を、私は探求した事はない。
 それを問うてしまうと、今まで積み上げて来た彼との何か、時間や関係、色々なものが崩れてしまいそうな気がしたから。
「なぁ、マミ」
「何?」
「困った事とか……あったら、いつでも相談とかしていいんだから、な」
 突然、何を言い出すのかと思えば、先程までの思い詰めていた表情は、これを言う為だったのか。
 困った事……悩み……。
 そんなもの、あり過ぎて何を言うべきか分からなくなる。
 中学受験、お母さん、クラスの女子。
 というか、綾瀬は私の何の悩みについての相談を持ち掛けているのだろう。
「ほら、由美とかの事……。お前、気付いてるんだろ?」
 密かに悪口を言われているだけで、今のところ私には直接の被害はない。
 というか、私が彼女達に近付かなければ、何も起こらない筈だ。
 その事を綾瀬に告げると、彼の頬がホッと緩んだ。
「そっか、よかった。この前、あいつらがマミの事……その、マミの悪口を言ってたから……」
「考え過ぎ。私は何度も陰口を叩かれた事はあるけど、被害にあった事はないんだから」
「本当に、何かあったら言えよ」
 綾瀬は本当に私の事を心配してくれている。
 心配してくれる人がいる。
 優子とはどこか違う、別の友人。
 そんな綾瀬の事を、私はクラス内の男子の誰よりも気に入っていた。

  =^_^=

 学校の帰りに、優子の家に寄った。
 優子のお母さんに、マフィンを作ったから食べにいらっしゃい、と呼ばれたから。
 なんだか優子のお母さんに対して、いつも家にお邪魔してしまって申し訳ない。
 学校からの帰りも一緒の優子には、気を張る必要はないけれど。
「すみません。今日はこの後に用事があって」
 少しだけ早かったけれど、夕方前に優子の家を後にした。
 帰りに「いっぱいあるから」と言って、マフィンも持たしてくれた。
 用事がある、なんていうのは嘘だ。
 優子のお母さんは優し過ぎる。
 だからこそ辛い。
 ここ最近の私は何かおかしい。
 苦である事にはとっくに慣れていた。
 でも、どうしてか優しくされるのは……逆に辛い。

 優子の母さんが持たせてくれたマフィンを持って、家に帰った。
 玄関の鍵は閉まっている。
 お母さんは出掛けているのだろうか。
 普段、持たされている鍵を使って、家に上がった。
 誰もいない静かな家。
 それほど古くなく、いや、むしろ新しい方の家の筈が、どこか空気が淀んでいて重苦しかった。
 誰かがいて皆が笑顔で過ごしている、優子の家とは大違いだ。
 優子のお母さんがくれたマフィンを冷蔵庫の中に入れ、リビングでお母さんの帰りを待った。
 きっと夕飯までには帰って来る。
 そしたら一緒にマフィンを食べよう。
 美味しい物を一緒に食べれば、きっとお母さんも少しは機嫌がよくなる筈だ。

 玄関から誰かが入って来る音で、ビクッと体が震え起きる。
 どうやらお母さんの帰りを待つ間、ソファの上に座ったまま寝てしまっていたみたいだ。
 リビングにお母さんが入って来る。
「あらマミ、帰ってたのね」
作品名:Remember me? ~children~ 5 作家名:レイ