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Remember me? ~children~ 5

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Episode4 Mami Amami


「神様わね、いつもマミの事を見守ってくれているの。マミが良い子にしていれば、神様は喜んでくれる。きっと神様はマミにご褒美を与えてくれるわ。だから、神様に微笑んでもらえる様な、立派な子になりなさいね」
 小学校へ入る前、お母さんは私に度々そう言っていた。
 私の家の家系はクリスチャンで、日曜日になると必ず、お母さんとお父さんと私の三人で教会のお祈りに参加した。
 いつからだろう。
 お母さんとお父さんが、私と一緒にお祈りへ行ってくれなくなったのは……。

  =^_^=

 夏休みが終わっても、鬱陶しい夏の暑さは、まだまだ留まる事を知らなかった。
 今日は小学五年生二学期の始業式。
 たった三時間の授業を終えて下校。
 行く意味がない。
 でも家にはいたくない。
 だから私は学校へ行った。


「あの態度がムカつくんだよねぇ」
「あ、それ分かる。なんか見下してる感じがするっていうかぁ」
「そうそう。ちょっと顔が良くて、先生からの評判が良いからって。いつも一緒にいるけどきっと、内心では優子ちゃんの事、見下してるに決まってるよ」
 クラス内の数人の女子が、そんな事を密かに話しているのを偶然にも聞いてしまったのは、今年の夏休みが始まる少し前だった
きっと、話の話題は私に関した事だ。
 あの連中は、クラス内の女子の中では気の強い方のメンバ―だ。
 その中の一人、見知っている顔がいる。
 愛想笑いで皆の話に合わせている子、私の方を申し訳なさそうにちらちらと見ている。
由美だ。
 由美は私や優子以外にも、構わず誰とでも話せる様な子だ。
 しかしそれが原因で、逆に苦労する事もある。
 見下した態度か……。
 別に私は誰かを見下している訳ではない。
 その人自身と関わる事で、私にどんな影響があるのかを見極めているだけだ。
 とは言ったものの、関わりたくない人と友人の区別はしっかりと出来ている。
 関わりたくない人……私に対して妙なレッテルを貼っているクラスの女子達だ。
 彼女達が私を嫌っているのなら、私が近付かなければいいだけの話だ。
 由美はどうだか知らないが……。
 それとは逆に、私にとっての友人である優子。
 彼女は私にとって、本当に良い友達だ。
勿論、私は彼女に対して人間として下等に評価した事など一度もない。
 しかし周りの目は、私の思う通りには思ってくれないようだ。


 夏休み開け一日目の学校を終え家に帰ると、お母さんは声を荒げて誰かと電話をしていた。
「どうして?! マミは来年は六年生に進級するのよ?! 受験が控えてるの!」
 来年に控えている、私の中学受験の話だ。
「何でよ?! どうして私にマミの事を押し付けるの?!」
「……お母さん」
 呼んでも、お母さんは受話器に怒鳴るばかり。
 どうやら私が帰って来た事に気付いていないようだ。
 いつもそう。
 この人は平気で人の悪口を言う。
 お母さんは、かつて愛してやまなかった筈のお父さんの悪口までも、いつからか私に言う様になった。
 それも私とお母さんが顔を合わせる夕飯時に。
 お父さんは家に帰る事が少ないので、面と向かった喧嘩を見る事は少ないが、今の様な電話越しの言い争いなら嫌と言うほど目にしている。
 私はお母さんのゴミ箱だ。
 内に溜めこまれた汚ない物の捌け口。
 それがお母さんにとっての私。
 自室へ向かい、背負っていたランドセルをベットに投げだした。
 いつもの事。
 いつもの事なんだ。
 そう思っていないと、日々を過ごしていられない。

「マミ。あなたの父親は本当に最低よ。あなたと家の事を全て私に押し付けて……」
 お母さんと私の二人で囲む食卓。
 二人分の市販の弁当。
 缶コーヒーと缶のオレンジジュース。
「あなたも思うでしょ? あの人は最低の人間なの。家にお金を入れるだけで、まるで私を家畜の様に扱っている」
「うん」
 絶えずお母さんの口から出るお父さんへの悪口。
 私は、それに無感情に頷く。
 同情する事もなく。
「そういえば勉強の方は進んでいるの?」
「うん」
「そう。しっかりやらないとダメよ。あんな市立の小学校で一番の成績も取れない様じゃ、あなたが行きたいと思う私立中学には入学できないんだから」
 別に、私が行きたいと望んだわけではない。
 この人が私を行かせたいと望んでいるのだ。
 しかし、そんな事を言えば、この人は私ではなく別の人間に対して怒りを抱く。
 私に『こんな考えを押し付けたのは誰か』と。
「そういえば前の保護者会で、あなたの担任の藤原って先生。何て言ってたと思う?」
「何?」
「子供達には大らかに楽しく毎日を過ごして欲しいって。おかしいわ! これだから経験のない若い先生は馬鹿なのよ!」
「……うん」
 この人が、私の親しい人達への暴言を吐いても、私は頷く事しかない。
 そうしないと、この人は私以外の当人に対して、余計に怒りを増幅させるから。
 たとえそれが優子の事であっても。

  =^_^=

 九月二十三日。
 晴れ。
 二学期最初の行事である運動会が終わって、一段落した翌週の日曜日。
 私は綾瀬と二人、朝方に隣街を訪れていた。
 電車で二駅の所にある新都市。
 街に据え付けられた街灯や、大通りに並ぶお店やオブジェは西洋風の作りをしていて、まだ新しい。
 駅から出てすぐのロータリーにあるバス停留所。
 ここから出るバスで二つの停留所を通り過ぎた所。
 そこが私達の目的地。
 教会だ。
 私と綾瀬は、教会のミサに来たのだ。
 互いに、両親が日曜日の教会へ行かなくなっても、私と綾瀬は必ず、一緒にミサには参加している。
 日曜日という事もあり、バスは人の乗降も少なく、すんなりと乗れる。
 私達はいつも通り、一番後ろの席に腰を降ろした。
「マミ、今日は何を作ってきたの?」
 綾瀬はいつも、私が作って来るお菓子を楽しみにしている。
 期待に満ちている表情も仕草も、普段では学校では見れない彼だ。
 なんだか可愛い。
「今日はワッフル。食べるのは、教会に着いて、お祈りが終わってからね」
 優子のお母さんから作り方を教わった、ホイップクリームと苺を乗せたワッフル。
 綾瀬に食べてもらうのが楽しみだ。
「ちょっとだけ、ここで俺が味見してやるから。お願い!」
 綾瀬は笑顔でぺこぺことおねだりをする。
「だめ。教会でミサを済ませてから、シスターさんや皆と食べるんだから。綾瀬も、その時にね」
 チェーっと言って、綾瀬はそっぽを向いた。
 頭が良くて友達思いで、かっこいい。
 綾瀬は、そんな印象を学校では皆に与えている。
 でも日曜日に私の隣にいる綾瀬は、どこか子供っぽくて可愛い。
 やはり人というのは、一緒にいる相手によって態度が変わるものだ。
 勿論、私も……。

 教会には、既に私達以外のキリシタンの人達も来ていた。
 所々の長椅子に座っているのは、殆どが少数人の年寄りや小さな子供だ。
 前の方の席には二人、シスターさんが座っている。
 私達は後ろから二番目の長椅子に座った。
 やはり見渡したところ、顔ぶれはいつもと同じ。
作品名:Remember me? ~children~ 5 作家名:レイ