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Remember me? ~children~ 3

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「はい。でも大分、良くなりましたから」
「そう、良かった。もう暫くしたら、ママが迎えに来るからね」
 藤原先生は、机を挟んで私の向かいに座った。
「優子ちゃん、ちゃんと後でお礼言っておくのよ」
「え? 誰にですか?」
「麗太君に決まってるじゃない」
 麗太君?
 何かしてもらったっけ?
「あなたをここまで運んだの、麗太君よ」
「え?!」
 私は麗太君におんぶされていたのか。
 恥ずかしくて頬が熱くなってきた。
 熱が上がりそうだ。
「あと、マミちゃんにもね」
「マミちゃん?」
「そうよ。あなたが寝ている間に、ここまで荷物を持って来てくれたんだから」
 二人には、迷惑掛けちゃったかな。
 あと由美ちゃんにも。
「後で、皆に言っておきます」
「そうしておきなさい。それにしても麗太君、格好良かったみたいよ。皆の前で躊躇いもなく優子ちゃんをおんぶして運んだんだから」
「へぇ、あの麗太君が」
 藤原先生は、笑みを浮かべて私を見る。
「麗太君って、もしかして優子ちゃんの事、好きだったりしてね」
「そ、そんな訳ないじゃないですか! もう!」
「あらそう。でも、全く気がないっていうなら、真っ先に優子ちゃんの所へ行って、運び出すなんて事はしないと思うわよ」
 赤面してあたふたしている私に先生は「もう、背伸びしちゃって」と笑っていた。
 確かに、先生の言う事にも一理あるのだ。
 麗太君は、私の事をどう思っているのだろう。
 私は……。
 そういえばあの時、私がマミちゃんに言おうとした言葉を思い出した。
 倒れる寸前、私が言おうとしていた言葉。
 私は麗太君の事が……。
 そうだ。
 きっともう、私は麗太君の事が好きになってしまっているんだ。
 この短い期間を一緒に過ごすうちに、私は無意識のうちに彼を理解し出して、好きになってしまっていた。
 これはたぶんもしかしたら、よく聞くが今まで経験のなかった初恋というやつだ。


 ママはタクシーで、学校まで迎えに来てくれていた。
 そういえば、うちの車はパパが出張先へ乗って行ってしまったんだ。
 タクシーなんて、お金も掛かっただろうに。
「タクシー代、優子のお小遣いから削らなきゃね」
 無邪気に笑いながら、そう言っていた。
 本当にお小遣いを削られる事はないと思うけど。

 家に帰るとシャワーだけ浴びて、私はすぐ布団に入った。
 麗太君はまだ帰って来ていなかった。
 きっと、クラスの男の子達とどこかで遊んでいるのだろう。
 それか光原君と、あの駄菓子屋に行っているか。
 ああ、また麗太君の事が頭に浮かぶ。
 私は本当に麗太君の事が好きなんだな。
 そう改めて実感した。
 麗太君の事を考えながら、私はゆっくりと目を瞑った。



 眼が覚めた時、周りは完全に暗くなっていて、冷房の弱風だけが、無造作に吹いていた。
 なんだか体が熱い。
 熱がぶり返してしまったのだろうか。
 パジャマが汗で濡れていて、気持ちが悪い。
 それに喉も乾いている。
 ママの所へ行って、何か飲ませてもらおう。
 体に掛かっている布団を避けて、ふらふらとベットから立ち上がった。
 やばい、頭がくらくらする上に、一歩が重い。
 ちょっとずつドアの方へ進み、部屋から出ようとした時だ。
 私がドアを開けるより先に、ドアが開いた。
 誰かが来たのだ。
 ドアが開くと、そこには麗太君がいた。
 彼の両手にはお盆、その上にポカリスウェットとコップがある。
「麗太君……」
 掠れた小さな声で呟いてすぐ、麗太君が来てくれた為の安堵感からか、全身の力が一気に抜け、私は彼の胸に倒れた。
 麗太君は今、どんな表情をしているのだろう。
 いきなり倒れ込んじゃったから、びっくりしているのかな。
 見上げると、麗太君は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「大丈夫だよ……ただの風邪なんだから」
 掠れた小さな声で言い聞かせた。
 麗太君は手に持っていたお盆を近くにある棚の上に置くと、両手で私の体をゆっくりと抱き締めた。
 感じたその香りは、やはりママとパパの香りと一緒だった。


 麗太君は、机の上にさっき手に持っていたお盆を置き、箪笥から替えのパジャマを出してくれた。
「ありがとう……」
 麗太君は首を横に振り、メモ用紙を見せる。
『どうって事ない。冷えるから早く着替えた方が良いよ。僕は部屋に戻るから、何かあったら呼んで』
 去ろうとする麗太君の腕を、私は咄嗟に抱き寄せた。
「行かないで……一緒にいて……」
 もし、麗太君に私の事を少しでも思ってくれている気持ちがあるのなら、一緒にいて欲しい。
 何より、抱かれた感覚が忘れられない。
 腕を必死に抱く私を見て、麗太君はゆっくりと頷いてくれた。

 お互いに反対方向を向き、私はベットの上で替えのパジャマに着替えた後、麗太君が持って来てくれたポカリスウェットで喉を潤した。
「麗太君、昼休みの事なんだけど……」
 しっかりと言っておきたかった。
 あの後、私は麗太君と話す暇さえなかったから。
「さっきは、ありがとう。麗太君が、私を保健室まで運んでくれたんだよね。ビックリしたよね? いきなり倒れちゃうんだから」
『どうって事ない』
 言葉を発する事が出来るのなら麗太君は、咄嗟にそう言っているのだろう。
 きっと、咄嗟に思い付いた言葉も、相手に訴える事も、本来なら容易なのだ。
 それなのに、今の麗太君にはそれが出来ない。
 他人は麗太君に対して、必要最低限な言葉だけを求めてしまう。
 私は……そんな他人にはなりたくない。
「あの時……いや……今も感じているけど、麗太君からは、ママやパパと同じ香りがするの。だから私は、麗太君の事を家族も同然だと思ってる」
 きっと、麗太君もそう思っている。
 でも私は、もういつからか分からないけれど、それ以上の関係を彼に対して望む様になっていた。
「でもね、私は……それだけで終わりたくはないって思ってる」
 麗太君と過ごして来た今日までの短い日々、それを胸に焼き付けて、今こそ言おう。
「私……麗太君の事、友達や家族としてじゃなくて、それ以上の意味で好きになっちゃったの! 裸を見られたからとかじゃなくて……本当に!」 
 私は麗太君の事が好き。
 好きで堪らない。
 もう、言わずにはいられなかったのだ。
 顔を真赤にして、私は俯いた。
 麗太君、私の事どう思ったかな。
 もしかして……退いちゃったかな……。
 幾つもの不安が込み上げて来る。
 でも次の瞬間には、赤面して火照った私の頬に、麗太君の手が添えられていた。
 そのまま抱き合ってしまいそうな位に、彼との距離が縮まる。
 頬に当てられた手は、冷たくて気持ちが良い。
「麗太君……私……」
 今、こういう時、私は麗太君に何と言えば良いのだろう。
 全く、言葉が浮かばない。
 それでも、彼が好きだという事は変わらない。
 この事だけは、麗太君に分かってもらいたい。
 抱き合ってしまいそうな位の距離を更に縮め、私達はお互いに唇を重ねた。
 私が幼い頃に交わした、ママやパパとの経験を除けばファーストキス。
 まさか、こんなに早く時が来るとは思ってもいなかった。
作品名:Remember me? ~children~ 3 作家名:レイ