ふたりぼっち
……そして、今、私の目の前に少女が、女がいた。
少女はすっかり大きくなって大人になっていたけれど、やはりその目は昔と同じ、猫の目のようだった。少女は、女は、ただじいっと私を見つめている。鋭く深い猫の瞳。
茶色がかった長い髪、真白いワンピース。暑い夏。けれど、今は夜。夜の闇は真っ暗だ。
遠い青い空は、もういない。
私は現実と幻想がごちゃまぜになって夢でも見ているような心地だ。これはいったいどういうことだろう。なぜ、なぜ。私には何も分からない。
食べていたものを飲み込んだらしい女は、無表情のまま手元の袋から黄色いものを一つ取り出すと、指先で摘まんで私の方へ差し出す。そのままじっと動かない。目は私を見つめたまま。
私も目をそらさない。
私は吸い寄せられるように女のそばに近づき屈んだ。女が口を開ける。赤い口、赤い舌、女は生きている。そう、生きている。私もまた口を開く。
そして、女の白い指先から私の口へ黄色が入る。食べた。
すっぱい。
ゆっくり噛み砕いて飲み込んでゆく。すっぱくて、悲しくて、嬉しくて、幸せになれる味。からっぽの夏の味。すべて、すべて溶けて私の心に体になってしまえばいい。
私が飲み込んだことを確認し、女が私の目をじっと見る。私もただじっと見つめる。
女の瞳。私の瞳。
ひとりの瞳、ひとりの瞳。
ふたりの瞳。
女がかすかに、笑む。
夏の夜が深まっていく。命はどこまでも続き、何度も生まれ、何度も死んで、また生まれるのだ。
また、すべて始まっていく。
眩しい。
ふたり、ぼっち。