香水(コスモス4)
勝手に聖域に土足で入ってきたあの男も、その男にヘラヘラして私を潰そうとするあの女も、あの泣き叫ぶ小さな生き物も、みんな、みんな死ねばいいのに。
「叶野、おまえ香水前にも注意したよな。職員の間でも、おまえのその香水は問題になってるんだ。放課後、生徒指導室に来い」
二時間目の授業が終わった後、生物実験室から教室へ帰るときに、担任の坂上にすれ違い様にそう云われた。
「坂上、何だって?」と、私が坂上に呼び止められた始終を見ていた静香とミーコが、すぐに声を掛けてきた。
「放課後生指来いって」
「マジで?前も云われてたもんね。香水でしょ?」
うん、と軽く返事した。行っとかないと、後が面倒だよねぇ。とりあえず、謝るだけ謝っとけばいいじゃん。
そうだね、といつものように笑って見せた。
心の中の私が、サムライウーマンを欲している。
放課後、私は云われたとおり、生徒指導室へ出向いた。扉をノックすると、どうぞと坂上の声が聞こえてきた。
失礼します、と入った私を出迎えたのは、坂上だけでなく、生徒指導担当の前川と、なぜか音楽教員の佐々木先生(女の先生は先生をつけて呼んでいる)がソファに座っていた。
「待ってたぞ」まぁ座れよ、と促されて、私は前川と佐々木先生の前のソファに腰掛けた。
「今日は香水のことで呼び出されたことはわかってるよな」
下手に逆らっちゃダメだよ、といった静香の顔を思い出して、とりあえず首で頷いてみせる。
「あのなぁ、叶野」と、腕を組みながら前川が口を開いた。
「オシャレをしたい年頃だってのもよぉくわかってる。がな、しかしだ。ここは学校だろ。香水なんかつけてくる理由がないじゃないか。学校は勉強する場所だろ。そうだろ?そんな香水なんかつけて男の子を引っ掛けるような場所じゃないだろ。そうだろ?」
違う、そんなんじゃない。
「先生だって、香水をつけ始めたのは就職してからなのよ」と、佐々木先生が横から口を挟んだ。
「そうだ。おまえたちみたいな高校生ではまだまだ早いんだよ」
「叶野、明日からもうつけてくんなよ。つけてきたら、母親と話し合いってこともあるからな」
「そうだ、他の生徒に悪影響与えかねんからな」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。